「石原さんとの私的思い出9」続:身捨つるほどの祖国はありや25
Japan In-depth / 2022年12月14日 23時0分
だが、よく考えて見れば、石原さんの言っていることは一貫しているとも言える。物が書けなくなれば江藤淳のように「当然」自殺する。しかし、ワープロのおかげで物が書けるから、自分は自殺などしない。死にたくなるどころか、書きたいことが頭に、心に溢れかえり、2014年には『やや暴力的に』(文藝春秋社 2014年刊)という短編集を出しているほどだ。2014年は石原さん82歳の時である。「好評だった」(『「私」という男の生涯』200頁)と気をよくしていることからしても、ありがとうございます。
ということなのだろう。
ところが、その石原さんは、「三ヶ月くらいでしょうかね」と信頼する医師の宣告を受けて、「私の神経は引き裂かれたと言うほかない」と告白することになる。
「死は放り出したくなるような矮小なものに堕してしまった。」という石原さんは、「江藤淳が肉体の衰弱に嫌気がさして自分を裁いてしまったのに通うものがあると思う。」と言わずにおれなくなってしまうのだ。死後に出版された『絶筆』(文藝春秋社 2022年刊)所収の『死への道程』(128頁)に、その悲痛とも投げやりとも甘美ともとれる叙述はある。
私の事務所の会議室での話に戻ろう。
話すにつれ石原さんの話はだんだんと具体性を帯びたものになっていった。
「この、A社の社長は実弟の兄貴なんだよ。でも、親会社は実弟が責任者になっている。
その実弟が、親会社の責任者なのに、これが昔の女、この『女 元』とだな、ヨリをもどしてしまう。そのあげく、あろうことか、A. Holding社の株の名義を自分から彼女に替えてしまうんだよ。
そいつがツマヅキの始まりってわけだ。
その女は行方不明になっちゃって、おまけに二人の兄弟のオヤジが事故で死ぬ。それも普通の事故じゃないんだ。
ツマヅキっていうのは、女が貰ったA社の株をCっていう暴力団の手に渡っしてしまうっていうお粗末な話だ。
その株が暴力団のC組の手に入って、A社はゆすられることになる。
もう一つのストーリーがあってね。
A社はB社と土地を交換で手に入れる。ところがB社は裏金で20億をA社に払えって要求するんだな。A社にとっては、他の所有地に隣接しているから、どうしても手に入れたい土地だった。それで、そのB社の無茶な要求を受け入れる。そしたら、B社は、20億を必ず払いますっていう念書を入れろ、書面にしろ、とA社に迫るんだ。A社の担当だった常務取締役が、A社には黙ったままそいつを出してしまう。
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