MRJ事業の危うさ
Japan In-depth / 2023年2月21日 18時0分
清谷信一(防衛ジャーナリスト)
【まとめ】
・産業界では航空宇宙の分野で防衛省の「官需」に頼らないで民需に活路を見いだそうという動きがでている。
・三菱重工は、MRJ(三菱リージョナルジェット)の開発を進めているが途中で挫折するだろう。
・他メーカーの協力を得るためのコンセンサスが業界にない、政府に防衛航空産業育成の明確なビジョンが欠如しているからだ。
この記事は文藝春秋社の月刊誌「諸君!」2008年4月に掲載された筆者の記事である。
当時から筆者はMRJの危うさに警鐘を鳴らしてきたが、少数派だった。多くのメディアは厳しい現実を直視することなく、成功するのが当たり前であるかのような、まるで日の丸を振って応援するような論調であった。敢えて15年前のこの記事を掲載したい。
以下、引用
防衛省は本年度予算から装備の「まとめ買い」を始めた。二年にわたって8機調達する空自のF2戦闘機を本年度で一括調達、これで162億円の経費削減、同じく本年から3年間で調達するはずだった陸自の多用途ヘリコプター、UH-1J16機も一括調達で16億円のコスト削減、総額を実現している。また平成20年度年度予算の要求分では、PX(次期哨戒機)やF15戦闘機の近代化改修、MCH-101ヘリコプターなどごく一部を「まとめ買い」するだけで、約400億円の調達費のコスト削減を行うとしている。
これは防衛省の装備調達の画期的な変化であるのだが、メディアでこれを伝えたところは殆ど無かった。
他国では通常防衛装備の調達に先立って調達数、調達期間、予算総額を決定する。例えば6年で戦闘ヘリを50機、予算は三千億円、一機当たりの単価は60億円と言った具合である。このような調達契約を結べばサプライヤー(メーカーや商社)はプロジェクトの内容が明確となり、ラインの維持期間、人件費、利益が事前に確定できる。また下請け企業にも部品などを纏めて発注できる。故にコストを抑えることができる。
ところが我が国の単年度会計に基づく調達方式では初めに数量、調達期間、総額を決定せずに、漫然と何十年もかけて装備が調達されることが恒常化している。故に国産、輸入品を問わず諸外国に比べて調達価格が何倍も高い。
このような「まとめ買い」が始まったのは、MD(ミサイル防衛)で通常装備の調達予算が圧迫されて、今までのように調達期間を引き延ばして毎年少量を発注するという、高コストな調達に耐えられなくなってきているからである。始まった「まとめ買い」はある意味需要の先食いであり、今後必然的に国内の防衛産業ではメーカーの淘汰が始まるだろう。
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