MRJ事業の危うさ
Japan In-depth / 2023年2月21日 18時0分
意外かも知れないが、信頼性に関しては軍用機より旅客機の方がシビアである。それは民間航空の方が遙かに機体を酷使するからである。エアラインは投入した資金を回収するために導入した機体を可能な限り可動させる。例えば東京―大阪便であれば機体は一日に何往復もする。
ところが軍用機はそれほど頻繁に飛行しない。一例を挙げれば空自の戦闘機の年間飛行時間は180時間ほどに過ぎない。使用頻度が低い故に一般に機体の寿命は軍用機の方が長い。1952年に初飛行を行った米空軍のB-52爆撃機は2045年まで使用されることになっている。B-52の最終型の製造が終わったのは1962年であるから、実に80年以上も使用されることになる。それに比べて使用頻度の高い民間旅客機は遙かに耐用期間が短い。
話が逸れたが、エアラインにとっていい旅客機とは購入金額が安くて頑丈で故障しない機体である。稼働率が高く、運行経費が安く済む、即ち投下した資金を、早く回収できる旅客機=稼げる機体なのだ。
新規参入組は実績がない分、値段をかなり下げる、あるいは顧客に有利なファイナンスを付けるなどの実質的なディスカウントが必要となる。しかも売り上げを伸ばすためには、先に述べたように初めのモデルの投資を回収する前から基本型以外に座席数を増減したバリエーションを開発製造して品揃えを増やす必要がある。そのための開発・生産の投資が更に必要となり、より多額の事業費が必要となる。
当然黒字化は更に先へと延びる。事業の黒字化には10年単位の時間がかかり、その間の必要な資金は兆円単位に膨らむだろう。
既に三菱重工は日本航空や全日本空輸に対して機体を引き渡すまでのつなぎの代替機のリース代や、購入した代替機の売却損などを一部補償するといった、エアライン側にとってかなりの好条件の申し出を行っている。この優遇で三菱重工の負担は数十億円にのぼるとみられる(読売新聞06年11月21日 )。
当然これらのディスカウントを行えば、採算分岐点は350機よりも一層高くなる。しかも9・11のような突発事によって市場が冷え込めば尚更採算ラインは尚更遠のく。航空機の場合、生産をやめて事業を撤退した後も、世界中で一定数の機体が運用されていれば、メーカーは部品の供給の義務を負う。つまり撤退後も長年にわたって負担が必要なのである。
端的に言えばMRJ事業は三菱重工一社(三菱グループが支えるにしても)が背負うには、その企業規模からみても荷がかちすぎる。しかも多くの事業部門を抱えるデパートのような三菱重工には専業メーカーのように果敢に判断を下して、迅速に投資を行うといった経営判断が出来ない。
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