MRJ事業の危うさ
Japan In-depth / 2023年2月21日 18時0分
同社が造船、工作機械、原発、宇宙ロケット、エアコンなどの他の部門の研究開発費や設備投資を削り、それらの部門の競争力を犠牲にしてまでMRJのプロジェクトに賭けるとは考えにくい。我が国の造船業界をみても積極的な投資を行ってきたのは専業メーカーであり、三菱重工や川崎重工のような総合重機メーカーではない。
80年代から90年代初頭、リージョナルジェット市場は乱戦時代で、ボンバルディアとエンブラエルは多くの敗者を市場から駆逐して、成功を収めた。
ボンバルディアは元来スノーモービルや鉄道車輛のメーカーだったが、80年代に低迷していた国営カナディア社および英国のショート社を買収して旅客機ビジネスに参入、高収益の航空部門に育て上げた。またブラジルのエンブラエルも赤字の国営企業だったが、民営化によってこれまた優良企業として蘇った。
両社に共通しているのは経営者が強いリーダーシップを発揮してリストラクチャリング(単なる首切りではなく本来の意味での事業の再構成)と果敢な投資を行ったことである。つまり、リスクを厭わぬ企業家精神とリスクマネジメントこそが航空産業で成功する条件である。これが日本の航空業界には決定的に欠落している。
我が国ではYS-11に続く国産旅客機の構想は通産省と業界で練られていたが、熾烈な競争を目の当たりにして足踏み状態を続け、市場参入の決断は先送りされてきた。
しかもリージョナルジェットの市場には戦闘機で有名なロシアのスホーイ社がスーパージェット100で参入を発表しており、競争の激化は避けられない。スーパージェット100は来年就航で、既にロシア国内で100機以上の受注を獲得している。また同社はイタリアの航空宇宙メーカーであるアレニア社とフランスの防衛電子大手であるタレス社と提携している。
アレニアとの生産と販売の提携もあり既にイタリアのエアラインから受注にも成功している。タレスのカナダの子会社はリージョナルジェットのアビオニクスや搭載電子システム統合の最大手でボンバルディアやエンブラエルの仕事も手がけている。更にスホーイは販売でボーイングの協力も取り付けている。このように同社は非常に手堅い布陣を敷いている。更にスホーイ自身には戦闘機メーカーとしての強いブランド力があり、これまた販売面では有利である。
報道などによると米ボーイング社が販売面などで三菱のMRJに協力すると言っているが、これを額面通りに受け取るのはナイーブ過ぎる。ボーイングがMRJの事業にパートナーとして参加し、何割か資本を提供するならば話は別であるが、今のところその様な動きは見られない。先に述べたようにボーイングは既にスホーイのとの提携を発表している。
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