MRJ事業の危うさ
Japan In-depth / 2023年2月21日 18時0分
確かにUS-2は世界でも類を見ないユニークな機体である。ヘリコプターに比べれば進出速度は遙かに速く、航続距離も格段に大きい。また離島の救急患者の移送などでも活躍している。筆者はこれを高く評価するが、費用対効果からみるとこの機体を採用するメリットは決して高くない。軽乗用車で間に合う近所の買い物用にボルボのステーションワゴンを購入するようなものである。
US-2は海自より、むしろ救難機として海上保安庁が保有するに相応しい機体である。だが全予算が約1600億円の海上保安庁が、数百億円(運用は最低3~4機が必要)を投じて、US-2の部隊を編成するのは不可能である。付け加えるならば、世界第二位の経済大国である我が国の消防庁の予算は僅かに160億円弱に過ぎない。この点からも海外での販売は如何に実現が難しいかわかるだろう。
このように航空メーカー各社のぶち上げている民間機市場への参入プランは、現実性があまり高くない。むしろ現実離れしているといってよい。これが我が国の航空産業界の認識なのである。
これら既存の航空機メーカーよりもむしろホンダやトヨタなど自動車メーカーの参入プランの方が現実的かつ堅実で、民間機市場で成功する可能性が高い。両社は長年にわたる入念な準備を経て、ビジネスジェットを開発、北米を中心に粛々と事業化に向けて活動している。実は企業のVIPや大金持ちをターゲットにしたビジネスジェットは、空飛ぶリムジンといえる存在で、経済効率やコストパフォーマンスよりもオーナーの趣味で購入が決定される傾向がある。しかも旅客機のように経済性を最優先する必要もない。
旅客機よりむしろ高級車にマーケット特性が似ている。しかも両社はクルマで培ったブランド力が大きな武器として活かせる。トヨタは05年に富士重工を買収したが、これは将来の航空機ビジネス参入に備えて航空機部門の開発のノウハウと、生産力を入手したいという思惑が働いたことは間違いあるまい。
ソ連崩壊後の世界の防衛航空宇宙マーケットは統合され、各国による保護の壁が取り払われた。その上多くの国々では国防予算が劇的に削減された。各国の企業は生存競争を勝ち抜くために買収や合併を繰り返し、企業規模の拡大と競争力の強化に勤しんできた。そうでなければ高騰する開発費や設備投資をまかなえないからである。米国を除けば先進国で航空産業は概ね機体メーカー、エンジンメーカー各1社という状況になっているのはこのような背景がある。
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