平成15年の年賀状「宮島、パリ、青山と私」・「広島へのセンチメンタル・ジャーニーと青年弁護士のボルネオ島への旅のことなど」
Japan In-depth / 2023年6月16日 11時0分
牛島信(弁護士・小説家・元検事)
年頭にあたり皆々様の御健勝をお祈り申し上げます。
昨年のご報告を一、二、申し上げます。
春、ひょんなことから新聞に小説を書かせて戴くことになりました。月一回、読み切りで未だ続いています。産経です。
夏、広島に帰りました。子供と日没を眺め、センチメンタル・ジャーニーを試みました。
秋、パリを歩きました。ピカソ美術館近くのカフェーで中年のマダムに頼んで、一人クロック・ムッシューを食べました。
冬、伊藤整の「変容」を読み返しました。彼がそれを書いた昭和43年は私が高校を卒業した年で、地下鉄の東西線は未だ大手町までしか来ていなかったようです。そんな東京が確かにありました。
週日港区に住むようになって三年ほどになります。街歩きが好きな私には僥幸です。目の前に昔の薩摩屋敷があります。麻布の善福寺があります。広尾でサンドウィッチを買います。狸穴のアメリカンクラブへも歩いて行けます。
今年は大きな目標を抱えています。「一年待つ」といわれています。
何卒本年も宜しくお導き下さいますようお願い申し上げます。
『宮島、パリ、青山と私』
【まとめ】
・2002年夏の広島への「センチメンタル・ジャーニー」はよく覚えている。
・検事から弁護士になり、事務所を変わり、その後独立するなど、放浪を繰り返した。
・どんな巨大組織も個人に支えられており、関わってきた人全てに今でも深く感謝している。
あの夏、平成14年、2002年の夏の広島への「センチメンタル・ジャーニー」の夏。あの夏のことはよく覚えている。
広島市郊外の牛田というところに両親の家があったが、4人が泊まるほどの大きさではないので、別に広島の中心部にあるリーガロイヤルホテルに部屋をとった。家族4人で3部屋だったか。52歳だった私は、もうそのくらいの贅沢ができるようになっていたのだろう。一つは大きなスイートだった。日没を眺めたのも、その部屋からだった。やがて広島カープのナイターがすぐ下に見え、まばゆいばかりの照明灯に浮かび上がった芝生の新鮮な緑が目になんとも清々しく、とても心地のよい光景だった。よく覚えている。あのときの旅のことはなにもかも覚えている気がする。
その部屋で、義兄と子ども二人の4人で話をしていたときのことである。
「わしゃー飛行機も操縦したことがあるんで」
広島弁まる出しの義兄は少し酔っていたのか、おおいに上機嫌だった。
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