平成19年の年賀状 「『我が師 石原慎太郎』、日米半導体戦争、そして失われた30年」・「三回の欠礼、M&Aとコーポレート・ガバナンス、そして人生と仕事」
Japan In-depth / 2023年7月12日 18時0分
石原千秋さんの評は小気味よい。
たとえば、平成30年(2018年)3月25日にはこうある。
「古市憲寿『彼は本当に優しい』(文学界)のラストは、『車窓から東京湾に目を向けると、鋼のように分厚い雲が海上に広がっていて、今にも雨が降りだしそうだった』といかにも小説家風。はいよくできました。高校生の文芸雑誌レベルである。」
その直後には、
「先月の壇蜜『タクミハラハラ』は中学校の文芸雑誌レベルだった。文学界は何をやっているのだろう。」と遠慮会釈なく切り捨てる。
同じ年の4月29日、石原氏は川上未映子を子ども扱いする。
「ナルシシズムを一顧だにしない鈍さに脱力する』
私は、毎日弁護士として大人の世界を生きている。私の仕事は国際的な場にまたがっているから、「大人の世界」と言うことができると思っている。甘えは通じない。江藤淳が言ったとおり、「国際的であるとはよそ行きでいるということ」だからである。アメリカの判決はアメリカで勝手に下され、日本で半ば自動的に執行されてしまう。大人として世を渡らなければ破綻するのみであろう。また、アメリカであれどこであれ、その資金は株式市場に投じられれば日本の上場した会社の支配権に及ぶ。
現在の私の関心は、弁護士としての内外の依頼者のための仕事にあり、事務所の経営にある。また、個人としては日本の失われた30年の原因とその復活の道、未来の姿にある。それは、当然のように戦後の日本への知識欲につながり、アメリカとの戦争を始めた日本についての興味につながる。アメリカとの戦争についての関心は、一方で2.26事件への興味、殊に安藤輝夫大尉の思いへの関心を掻き立て、他方で中国との戦争にいたった明治維新以降の日本のもっていた別の可能性につながる。
そうした関心は、すべて未来を占うためにある。占う方法は、たとえばロシアに武力攻撃を受けているウクライナと祖国日本を比することである。
失われた30年はまた、プラザ合意とはなんであったのかについての私なりの解明へ向かわせる。なかでも半導体協定についてもっと知りたいという熱意がふつふつと湧き出る。
牧本次生さんの『日本半導体の復権』(ちくま新書)に出逢った私は、自分の理解してきたプラザ合意、その後の決定的な日米関係の経緯について、牧本さんに「これは一種のトラウマとなって長く尾を引いたように思う」と改めて教えていただいた。(172頁)
これ、とは、すぐ前にある「突然の301条の発令とトップ会談の決裂とは、日本政府と民間企業に対して米国の怒りの大きさを強く知らしめ、日本はすっかり萎縮してしまったのだ。」とある部分を指す。トップ会談とは、通商法301条に基づき日本を制裁すると米国が発表した直後、1987年4月に中曽根首相が急遽渡米して臨んだレーガン大統領との会談のことである。それが決裂したのである。
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