平成24年の年賀状「リチャード・W・ラビノウィッツ先生のこと」・「様々な葬儀のこと」
Japan In-depth / 2023年9月13日 13時45分
牛島信(弁護士・小説家・元検事)
年頭に当たり皆々様の御健勝をお祈り申し上げます。
昨年もいろいろな方にお世話になりました。お礼の申し上げようもありません。
春夏秋冬、仕事に明け仕事に暮れました。三月十一日にも小舟のように揺れる会議室にいました。その時に何が起きていたのかを思うと、胸が痛みます。
毎月、鞆の浦に参上しました。故郷広島へのささやかな恩返しです。
毎日のように本を買い、深夜、時間を盗むようにして読み耽ります。自分でも『この時代を生き抜くために』というエッセイ集を幻冬舎から出しました。日経ビジネスオンラインには『あの男の正体』という小説を連載中です。どちらも締め切りあればこそ、です。
毎晩、決まって漱石の『心』を読んで眠りに入ります。
徳島へ行ったとき、お腹を空かした猫に出逢いました。今頃どうしていることか、ふと思い出すことがあります。アラカンの弁護士のような、まだ名前のない猫かと近寄っていくと、「余計なお世話。私はハナコ、2歳です」と鳴かれて逃げられてしまいました。
『リチャード・W・ラビノウィッツ先生のこと』
【まとめ】
・師ラビノウィッツ弁護士の口癖は「私は世界のどこへでも出かけていきます。ただし、仕事の必要があれば」。
・私は今も人生を見つけたという気がしていない。
・罪の意識は一定時間働けばその後つかの間だけは消える。私は、その間に、時間を盗むようにして文章を書く。
そうだった、2011年3月11日の地震の瞬間、私は「小舟のように揺れる会議室に」いたのだった。永田町にある山王パークタワーの12階の会議室で、インドから訪ねてくれた弁護士さんと話をしていたのだった。
彼は、「いつも日本ではこんなに揺れるのか?」とたずね、私は、「いや、こんなに強い地震は珍しいよ。」と答えた。
船酔いしそうな揺れが、ゆっくりと大きく、長く、いつまでも際限なく続いた。ちょうど秘書がお茶を運んできてくれた時だった。しかし、彼女も私も彼も、テーブルの下に隠れることもなく、座ったままでいた。
私は、揺れを感じながら、秘書に、「ずいぶんゆっくりと揺れるね。どこが震源地なのかな。」と話しかけた。もちろん、彼女が知っているはずもない。黙ったまま微笑んでかぶりを振った。
インドの弁護士さんは、揺れが収まると落ち着かない様子で立ち上がり、角部屋であるその会議室の窓二つ、首相官邸側の窓と溜池側の窓越しに熱心に遠く、近く、外の風景を眺めていた。
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