平成24年の年賀状「リチャード・W・ラビノウィッツ先生のこと」・「様々な葬儀のこと」
Japan In-depth / 2023年9月13日 13時45分
あれは地震だったのか、それとも停電かなにかだったのか。その法律事務所がビルのオーナーの顧問弁護士事務所だからと特に頼んでくれて、荷物用のエレベータで無事降りることができたのを覚えている。
他にもニューヨークでは、ホテルのエレベータに閉じ込められてしまったことがあった。非常用のボタンを押して、電話で助けを求めるしかなかった。以来、いつもエレベータに乗ると床の大きさをつくづくと眺める。横になることができる広さかどうかが気になるのだ。生きているといろいろな目に遭うと知っている。
鞆の浦に通うことになったのは、旧知の湯崎英彦広島県知事からの電話がきっかけだった。風光明媚の地である鞆の浦に橋を架ける埋め立て計画があり、裁判所が埋め立て免許を差し止める命令を出したのだ。10月に広島地方裁判所の判決があって、11月に湯崎さんが知事に初当選したばかりだった。長い間の懸案だったが、これまで埋め立て賛成派と反対派が同じ席に就いて話し合ったことがない。だから、その話し合いの場を設定するので進行役をしてほしいという依頼だった。
もう一人の進行役、大澤恒夫弁護士と2年間、毎月一回鞆の浦に通った。彼は静岡から、私は東京からだ。
私は、故郷広島に恩返しせよという天の声だと感じていた。
まことに「ささやかな恩返し」だった。
私は湯崎知事の発想、これまで話し合ったことのなかった埋め立て賛成派と反対派の両派が話し合うことのできる場所を初めて設定し、それを県ではなく第三者である進行役に委ねるという発想に感嘆した。素晴らしいと思った。そうした場に立ち会える機会を、私自身にとっては天命だと感じた。当時、大阪の橋下徹知事がメディアで絶賛されていた。動と静。私は、目の前の湯崎知事が橋下さんの動に対する静の知事として、同様に優れたリーダーだと感じ、そう口にもした。
しかし、お役に立てたのかどうかは今でも半信半疑である。私は検事を2年やってビジネスの弁護士をやってきたに過ぎない。とにかく、当事者ではない第三者であることが大切なのだと毎回自分に言い聞かせていた。
鞆の浦のどこにも素晴らしい人々がいて、なるほど世の中はそのように出来ているものなのかと思わされた。日本の津々浦々、どこも同じに違いない。私のように、ビジネスの観点から物事を眺め、常々、世界は東京とニューヨークとロンドン、それにその他と思って仕事をしてきた人間には、鞆の浦では学ぶことばかりだったような気がする。
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