1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「平成28年の年賀状」団塊の世代の物語(1)

Japan In-depth / 2024年1月12日 11時18分

あの会社、広島興産は峰夫と私が二人で大きくした会社なの。信じられんかもしれんけど、そう峰夫の遺言にちゃんと書いてある。





峰夫には種がなかったの。結婚してすぐから自分でわかってた。二人で検査を受けたんよ。そしたら、そう告げられた。それも遺言に書いてある。医者の診断書もあるんよ。





広島の弁護士に頼んどるんじゃけど、なんか信用できんのよ。」





彼女はその弁護士の名前をあげて、私に知っているかとたずねた。





もちろん、私は知らない。東京の弁護士でもほとんどは知らない。私の名を知らない弁護士は全国にいくらもいるだろうが、逆に私も全国の弁護士のほとんどを知りはしない。





「知らない先生だね。」





そう無関心を装って答えた。





「そりゃそうじゃろうね。





でも、私は私の子にあの会社を継がせたいの。





うちが9%の株を持っているってゆうたじゃろ。





だから、峰夫が死んだから、広島興産ていう会社は峰夫の一人切りの子ども、峰夫の戸籍上の一人切りの子のものになる。もう奥さんはおってないけえね。その人との間の子どもっていうことになっとるけど、血がつながってるはずはないの。悪い奥さんよね。私も人ことは言えんけど。峰夫の奥さんいうのはもう十年も前に亡くなっとるけえね。私が葬式一切を取りしきってあげたの。私、広島興産の専務じゃったしね」





峰夫というのが、亡くなった創業者の名のようだった。岩本さんはその会社の専務までやっていたらしい。





「ふーん。そうなの。でも、あなたの二人目の子どもが、その峰夫という男性、なに峰夫さんか存じ上げないけれど、その方の実の子どもだっていうのは、どうやって証明できるのかい。」





「いやじゃねえ、藤友君が話しとってくれたんじゃないの。あの人の知り合いの大阪にある産婦人科の医院で生んだんじゃけえ。」





「そう。でも、血縁関係がわかるのかい」





私は藤友君との会話には触れなかった。あぶない、あぶない。





「なんもかも、藤友君が持っとるんよ。





私の長男の実の父親なんじゃけえ、彼とっても心配してくれてるの。うち、藤友君にはいつも、なんでも相談するんよ。」





しかし、私の内心には自分がトラブルに巻き込まれる漠然とした予感があった。花の女王の遺産問題は、9%の株主としての地位を含め、私にとってただの法律問題では済まないかもしれない。





私は、いつもの答えを淡々と開陳した。





「僕の事務所には60人以上の弁護士がいる。スタッフを入れると100人を軽く超えるんだ。





この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください