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「平成28年の年賀状」団塊の世代の物語(1)

Japan In-depth / 2024年1月12日 11時18分

「二人目の子どもの親は、あんのじょう、会社の社長だった。オレと切れてからだけど、長かったみたいなんだ。」





「そりゃ、君みたいに格好いい男に捨てられたら、どうしたって次が欲しくなるさ。





でも、ご亭主がいたのにどうして。いや、それは個人の秘密だ。僕が質問すべきことじゃないな」





私が冗談まじりに軽口をたたくと、





「ま、そういうことだ。いろいろわけありでね。オレも昔はたっぷりと毛が生えとったし」





「いや、髪の毛の有無と男の魅力は関係ないだろう。現に、君が振ったんで彼女から切れようと言い出したわけじゃないんだろう。」





「自慢じゃないがね。





でも、オレも忙しくってさ」





「なにが?」





私は意味ありげに口を閉じたまま、唇の両端に力を入れて歯を見せずに笑ってみせた。





「いろいろあったのさ、74になるまでにはな。わかるだろう」





「さあて、弁護士だからね、そういう相談は多いがね。」





「ま、いい。





彼女のことだ。





オレが紹介した大阪の産婦人科の医院で生んだ子どもが二人目ってわけだ。





だから、死んだ亭主の子は、この世に一人もいない。不思議な夫婦だったな。





これって、どういうことになるんだい。岩本さんのこれからの運命さ。





オレがオマエと熱心に話しているのを彼女はさっきからチラチラ見ているだろう。





たぶん、オレが席を外したら、彼女、まだ席があたたかいうちにこの椅子に座りにくるぜ。」





しかし、藤友君が立ちあがるのと入れ替わりのように隣の席にやってきたのは薬局の娘だった高山嬢だった。現在の姓は知らない。まだ藤友君の温もりの残っている椅子にせかせかとお尻の半分だけのせて座った。





「ねえ、大木君。あんた弁護士なんじゃろ。教えてえや。うちの薬局の土地の相続で弟ともめとるんよ。」





「ほう、それは大変だ。わかった、ここに電話して。僕はとてもじゃないが忙しいけれど、うちの事務所の弁護士のなかから、適当な、できる弁護士をつけるから」





岩本さんは、私と旧姓高山嬢の話が終わるのを待ちかねたように、私の隣にやってきた。あいかわらず片手にブランディグラスを持って揺らしている。





それが、私の74年の長い人生の幸運の連続の最後のときになるとは、そのときには想像だにしなかった。





「藤友君から聞いたでしょ。うちの下の子は、広島興産の創業者の子どもなんよ。





私もその会社の株を9%持っとるんよ。





でも、私の話はその株のことだけじゃないの。その創業者の遺産分割が未だおわってないの。平和大通りに立派なビルを持ってる会社で、100億以上の価値があるって税理士さんは言ってるんよ。





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