「令和3年の年賀状」団塊の世代の物語(5)
Japan In-depth / 2024年6月12日 19時0分
牛島信(弁護士・小説家・元検事)
【まとめ】
・このシリーズは、年賀状を振り返ってはその時その時の自分を思い返してみようとおもって始めた。
・むかしの自分に再び巡り合って、懐かしい驚きを繰り返すという思いつきで始めた。
・まだ何回か残っている旅だが、どうなることやら。
未だ新しい生活に慣れません。ついこの間まであった、夕食後のひと眠り、その後の一杯の紅茶、そして夜明け近くまでの深夜の書斎での独り切りでの無限の時間、満ち足りた刻(とき)。そうした全てが懐かしいのです。それ無しの生活が、生き続けてゆくために必要で、健康のためと自ら納得して改めたことではあっても、ときどき寂しくなります。
無理もありません。私は50年以上もの間、そういう人閏として暮らして来たのですから、急に別の人間にはなれません。
でも、住めば都。日々新しく見つけ出す悦びもあります。たとえばひと気のない朝のオフィスで取リだす鍵の冷たい感触です。
『身捨つるほどの祖国はありや』というエッセイ集を出しました。8冊目になります。寺山修司が21歳のときに詠んだ歌の下の句です。
私には祖国を選ぶという発想はありません。日本に生まれ、日本語を母国語として育ったからです。そういえば、心臓の精密検査のあと、「大丈夫。もう10年は国のために働いてください」と医者にいわれたのが6年前です。
焦りはありません。これでいいのです。この国に生まれ、たぶんこの国で死ぬ。それだけでも、生きている間に少しは祖国とそこに住む未来の人々に恩返ししなくてはなりません。そのつもりでいます。どうかよろしくお願いします。
「夕食後のひと眠り、その後の一杯の紅茶、そして夜明け近くまでの深夜の書斎での独り切りでの無限の時間、満ち足りた刻(とき)」
「そうした全て」、実はそれこそが若さだったのだ。いま74歳になってはじめて分かる。たった3年半の時の経過にすぎないのに、今になったからわかるようになっている。
70歳まで「満ち足りた刻(とき)」をむさぼり、また、いつくしんでいた。それまで、当たり前のようにそうした生活にひたり、甘美な時間を愉しんでいたのだろう。思えば、つくづく幸運だったとしか言いようがない。だが、もう過ぎてしまった時間、忘れてしまった時間。
日は昇り、そして沈むもの。
しかし、未だ私の日は沈んではいない。沈むまでには未だまだ間がある。そう思っている。
もともと体を動かすことが好きではなかったから、年齢とともに消え去ってしまう肉体の切れ味、たとえばテニスで小気味よいスマッシュが相手のコートにピタリピタリと決まっていたのが突然はずれるようになってしまったことを思い知るとき。そんな瞬間に感じる自分への軽い驚き。そうした類のこととは無縁に過ごしてきた。
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