「令和6年の年賀状」団塊の世代の物語(8)
Japan In-depth / 2024年9月10日 21時0分
牛島信(弁護士・小説家・元検事)
【まとめ】
・過去の記憶は、未来において初めて創り出されるものだ。
・老いを感じ、死を意識する中で、過去の記憶は変化し続ける。
・未来への期待と死への恐れを抱きながら、人生の意味を探求する。
明日は今日の翌日ではなく、毎日が新しい日です。
へミングウェイは晚年に『移動祝祭日』を書きました。若く貧しかったパリの日々の回想です。
でも本当は裕福だったと知って、私なりに考えるところがありました。
過去とは、現在の時点で創りだす昔についての記憶なのです。
世界的な文豪となっていた62歳のへミングウェイの記憶では、金がなく腹を空かせてパリをさまよっていた青年こそが自分だったのでしょう。
七四歳の私にとっては?私は六〇代以前をどう思い返すのか。
新しい日が、私の過去の記憶をこれから創ります。私の記憶する過去は、未来になって初めて創られ、そのときに過去として心に刻まれるのです。
週2回の運動による身体がそれを支えています。
「私の記憶する過去は、未来になって初めて創られ、そのときに過去として心に刻まれるのです。」
どの未来のことなのだろう?つまり、74歳のこの男は、果たして何年後の現在を想定して「過去として心に刻む」などと言っているのだろう?
そういえば石原さんは、「誰もそうとは知っていても、最後の未来について自分自身のものとしては信じようとはしない。しかし、予感するようにはなる。」と書いている。(石原慎太郎『私という男の生涯』10頁 幻冬舎)80歳を過ぎていた石原さんの思いである。
もちろん最後の未来というのは死のことである。では、今の私は最後の未来について予感しているだろうか?
石原さんは上記の直前に「七十の半ばを過ぎて折節に自分の老いを感じ認めるようになると、誰しもがその先にあるもの、つまり死について、それも誰のものならぬ自分自身のこととして予感し意識するようになるようだ。」と書いている。
私はもうすぐ70の半ばを過ぎる。しかし死を予感しても意識してもいない。それは自分の老いを感じ始めていないからなのだろうか。
いや、私は今年に入って顧問弁護士を相手に遺言書の相談を始めたくらいなのだから、自分の死を予感し意識しているということではあるのだろう。日常生活のうえでも、たとえば歯と歯の間の隙間が大きくなってくると食事のたびに感じさせられるし、なんということがなくても簡単に咳きこむ。朝ベッドを出るのに腰が痛い。どれも老いの兆候に違いない。それどころか老いそのものかもしれない。
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