「令和6年の年賀状」団塊の世代の物語(8)
Japan In-depth / 2024年9月10日 21時0分
「週2回の運動による身体」があるがゆえに、私は老いを認めないでいられるつもりでいるのだろうか。だから自分自身の死を予感しないのだと言いはるのだろうか。
そうなのだろう。たぶんそうに違いない。
私は、66歳から運動を始めた。ことに4年前コロナになってからは1回を増やして週2回にした。その定期的運動のおかげで筋肉量が増えていることを感じている。触れればわかる。大腿筋や大臀筋は確実に太く強くなっている。これから先、もっともっとそうなるだろう。
しかし、筋肉と内臓は違う。筋肉が強くなっても、内臓や血管が元に戻るわけではない。老化は多かれ少なかれ日々確実に進んでいる。
でも、自分自身のものとしての死が近づいていると信じてはいない。いや、別に信じられないわけではないし、理窟もよくわかっている。ただ実感がないというだけなのだろう。これまでの何十億の死もそれぞれの人によってそのように迎えられたのだろうか。
では、私はいつになったら過去を思いだしたいという気になるのだろうか?
「現在の時点で創りだす昔についての記憶」が過去だとすれば、私はいつになったらその時点が現在であるとして、過去なるものを創りだすときがついに来たと考えるつもりでいるのだろうか?
たぶん、私は途方もない野心家なのだ。滑稽なほどに、といってもよい。
だから、未だ来ていない74歳以降の未来の或る時点を、最後の時点である死の直前と思い定め、そのときになって初めて過去として認知し創り出すつもりでいるのだ。だから、私にとって当面のところ過去などというものは存在するはずがない。まだ来ていないのだから、過去として創り出していないのだから。
だがそうはうそぶいてみても、「2歳か3歳のとき」のこととして平成31年の年賀状に書いている若松の小石海岸での記憶は、既に来た過去についての記憶として心のなかにあるのではないか?
ある。そのとおり。
しかし、未だ来ていない過去についての記憶は未だ存在しない。その過去こそが自分にとって最も重要な過去なのだと言い張るつもりなのだ。
その過去は、「30代の父親が私を両腕に抱いた、腰より下くらいまでの海に立っていました。」という過去の事実を含む、もっともっと長い人生のほとんど全体にわたる、長い長い過去の最後尾の部分になるのだろう。
そのときになったら、ひょっとしたら、私は小石海岸で泣いていなかったという過去を思い出すようになってしまっているかもしれない。
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