「令和6年の年賀状」団塊の世代の物語(8)
Japan In-depth / 2024年9月10日 21時0分
「後編はJDCのことから始めることになる。ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニーだ。
「知ってる。峰夫がいつも言ってたもの」
「そうかい」
三津野は英子が亡くなった男に触れたことが不快な気ばした。そんな自分が少し不思議だった。
「そうそう、言っとかないと。僕の話の相当部分は大木先生に教えてもらったことなんだ。彼はメディアの取材をよく受けるからね。『メディアの方には、いつも熱を込めて話す。なぜなら、と僕は前置きをするんだ。『日本の裁判システムは未だ発展途上なのでね。コーポレートガバナンスの監視役はメディアしかないのが現実なのです。独立社外取締役ひとつをとったって、早い話がおめでたい性善説に乗ったしろものじゃないですか』って説くんですよ』って言ってる。ま、受け売りだ」
「でも、あなたに聞きたい。あなたが大木先生の喋ったことのうち自分の考えとして受け入れたもの、それを聴きたいの。半導体も入っているんでしょう」
「そうだよ。聞いてくれてありがとう」
英子が、突然手を胸元へ上げ、手のひらをまっすぐに伸ばして拍手をした。三津野は英子を抱きしめたい衝動に駆られる。しかし、いまは落語の続きだった。
「例え話を一つ。寿司屋での前編の復習だ。
僕のところへも、コーポレートガバナンスの話を聞きにたくさんのメディアの方々が訪ねてくださる。そのときに僕は、時間の許すかぎり、手始めにこの話から始めることにしている。
僕は経団連でその種の委員会の役員をやっていたからね。メディアの方がわざわざ訪ねてくださる。いつも真剣勝負だ。」
「そうね、峰夫もそう繰り返してた。私、弁護士でもない峰夫がなぜ裁判所の話なんかと思って聞いていたけど」
「そうかい」
またあの不快感がこみ上げた。どうしたというのか。
「始まりは『もしあなたが1980年代のアメリカのビジネス・パーソンなら?』という設定だ。でも、そいつは前編で、さっき寿司屋でやったから、省略だ。でもプラザ合意だからね、大事なのは。そこに戻って来る、たぶんなんども」
「プラザホテル、よく知ってる。なんども泊まったわ」
<誰と?>
という問いをやっと抑え込んだ。
「実は、前編には前書きがあってね。
それが『戦後日本の企業史の真実』ってわけだ。」
「なんだか凄いお話なのね」
「どうかな。とにかく『聞き給え』ってとこだ。いいかい。」
「ランボーね、好きよ。Écouterっていうあの響き、とっても素敵」
「お互い、小林秀雄だね、岩波文庫の『地獄の季節』、星一つで50円だったよね」
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