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「令和6年の年賀状」団塊の世代の物語(8)

Japan In-depth / 2024年9月10日 21時0分

でも、再読してみて、はたと気づくことがあったそうなんだ。自分は、実はGHQの財閥解体が生み出した「日本的株式上場会社のシステム」について書いていたっていうことに改めで気づいたっていうことなんだな。





コーポレートガバナンスのない時代のことと言ってもいい。」





ここまで三津野が話したところで英子は腕を解き、身体を話して隣で長くなった。もちろんぴったりとくっついたままである。





すこし呼吸が楽になったので三津野は続けた。





「つまり持合い株主とは、お互いに議決権の行使をそれぞれの会社の社長に任せる。協同組合の実質はどの会社も同じだからさ。





単純化していえば、こうなる。





A社はB社とC社の株を持っている。B社はC社とA社の株を持っている。C社はA社とB社の株を持っている。議決権はそれぞれの会社の社長が行使する。そのために、株主である会社は委任状を社長にだす。だから、社長の意志は株主総会でも貫くことができる。ただの社長ではない。株の大半を、委任状を通じて押さえているのだ。疑似オーナーと呼ぶ所以だね。ただし、疑似オーナーであるのは、その代表者の地位にある限りに過ぎない。幹部従業員の協同組合なのである。梯子の下にはたくさんの後輩たちが組合員として待っている。そのなかに、現社長に指名されて後継ぎになる人間がいる。





日経の『私の履歴書』に決まり文句のように出てくる、あれだよ。





『ある日、突然社長に呼び出された。目のまえに座ると、『次は君がやってくれ』といきなり切り出された。『え?』と声が出た後、やっと『すみません、一日待ってください。女房に相談させてください』とだけ言うのが精いっぱいでした。』というお定まりの名場面だ。





実務上の便法としては、持ち合い株主は、議決権の行使を社長の指揮下にある総務部長や次長という個人宛の委任状を出すという方法で株主総会を安穏に乗り切ることになっていた。そこを突くのが総会屋という一種の職能集団だった。総会屋に金品を渡せば、会社の人間も犯罪を犯すことになる。後になってそこを特捜部が突いた。形式は上場会社、実質は幹部従業員の協同組合という仕組み。そのやり方から生まれたあだ花が総会屋でという、特別の職業だった。どちらも、特捜部によって退治された。





悲劇も起きたよ。





一時は大木先生の講演での十八番だったな。





『私が田原(総一朗)先生に初めてお目にかかった日を、今でも鮮明に覚えております。1997年6月29日の日曜日です。「サンデープロジェクト」という日曜午前中の報道番組で、私が呼ばれてお話をしていたときに、第一勧業銀行(現みずほ銀行)の頭取、会長を務めた宮崎邦次さんが自殺をしたというニュースメモが、田原先生に渡され、それを見て「みなさん今……」と言われたのです。」(弊著『会社が変わる!日本が変わる!! 日本再生「最終提言」』18頁)





自殺の原因は総会屋事件での特捜部の犯罪捜査であったといわれる。』





と、こうくるわけだ。」





また大木の話になってしまった。それも大見えを切る話だなんて。





三津野は、並んで横にいる英子の指を掴むと強く握った。英子が反対の手で大木の胸に触れる。そして優しく手のひらを前後に動かした。





「落語の続き、このままやる?」





英子が、大きくうなづいた。





トップ写真:東京の夜景 出典:Krzysztof Baranowski/GettyImages




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