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「令和6年の年賀状」団塊の世代の物語(8)

Japan In-depth / 2024年9月10日 21時0分

英子が軽くうなづく。





「戦後すぐ、GHQが財閥を解体したために、三菱地所が陽和不動産と開東不動産っていう二社に解体された。その陽和不動産が、1951年に買い占めにあった。





藤綱久二郎という相場師が、銀座の商店主の金を集めて株の3分の1強を買い占めてしまったんだ。





もちろん、三菱銀行をはじめ三菱財閥の総力をあげての株の買戻しをした。高値での買い取りとなったことは言うまでもない。しかし、なんといっても丸の内の大家で、三菱グループの象徴的な会社だからね。当然の対応だと誰もがおもった。で、この陽和不動産はもうひとつの開東不動産といっしょになって現在の三菱地所になるんだよ。





要するに、株の「持ち合い」による三菱財閥再統合だったってわけだ。しかし、三菱財閥といっても岩崎家はもういない。オーナーはいない。もともと三菱本社の従業員にすぎなかったグループ会社の社長たちが集まって決めたのさ。





幹部従業員協同組合が誕生いたしましたってわけだ。実質は組合、形式は上場株式会社というキメラだ。





上場会社の株の持ち合いの始まりがこれさ。」





「ふーん、それでどうなるの」





こんどは英子が峰夫の名を出さなかったことに三津野はすこしほっと救われる思いがした。そして次の瞬間、声にも表情にも出さずに自分を嗤った。一人のピエロが花の女王の前に座っている図だった。





「上場会社が株の持ち合いをするとどうなるか。





上場の形式をとってはいても、実質は幹部従業員の協同組合となる。お互いに株を持ち合ってはいても、どこも議決権には興味がない。なぜなら、株の持ち合いとは、実質が協同組合である上場会社が、お互いの議決権を、それぞれの上場会社に任せるという約束なんだよ。つまり、ウチはオタクの株を持っている。オタクはウチの株を持っている。議決権?あ、それはそれぞれの株主じゃなくて、発行会社の社長が言うとおりに行使しましょう、ってわけだ。





つまり、社長は株の持合いを通じて疑似オーナーの立場にある。もちろん、協同組合の代表としての機能、その任にある間かぎりの立場に過ぎない。幹部従業員のハシゴを最後まで昇った人間を上場会社の社長と呼ぶだけのことだ。」





ここで三津野は英子の淹れてくれていた紅茶を口に含んだ。アールグレイだった。もう時間が経っているので冷めている。しかし、本当に美味しい紅茶は冷たくなると一段とうまみが増すのだ。





「この話、実のところ大木先生に教えてもらったんだけどね。でも、ビジネスマンの僕の感覚とぴったりと一致する。そういうことだったのか、という思い知らされる気がしたよ。





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