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「令和6年の年賀状」団塊の世代の物語(8)

Japan In-depth / 2024年9月10日 21時0分

それで、僕ら男子もつい立て越しに女子を覗いた。





僕は、岩本さんだけを見ていて、彼女の大人の女性のような発達した乳房と黒くて大きな乳輪を目にしました。」





三津野にとっては、花の女王についての重要な情報だった。だから、もう何年も以前に聞いたことなのだが、はっきりと覚えていた。





「あなた、好き。





あなたは、好き?」





顔を、鎌首をもたげたようにあげ、視線は一瞬も三津野の目から離さずに問いかける。





「好きだよ。





とっても」





「生まれてこれほど好きになったことはない?」





「いや、なんどもそう感じた。そのたびにそう感じた。」





英子は微笑みながら、





「正直ね。





 そういうとこ、とても好きよ。」





視線を外さないままそう口にすると、三津野の唇に唇を重ねた。





「ほら、最後のあの感じになるでしょう。これがあなたの人生にとって最後の、女を好きという感覚よ。





 わかっているわよね」





「ああ、そうだと思っている。





いま僕の体のうえに花の女王がのしかかかっている。そして、僕がお気にめさないことを口走ろうものなら、この身を食いちぎろうとしている。」





「食いちぎりはしない。だって、あなたは私の気に入らないことは決して言わないから。」





「そうだね。





 どうしてそうなのかわからないけど、そうだと思う、強く思う。そう欲求する。」





どちらも声を出さず、ベッドのシーツの下で重なって伸びたまま、5分の時が過ぎた。





「落語は一時休止のまま?」





「いやね。あたりまえでしょ」





「お望みのままに」





「待って。





いいわ。落語、つづけて。ただし、このままでね。」





「大木先生に聞いた話だ。」





自分でもこの格好で大木弁護士の話をするのか、という気がした。しかし、三津野の落語の重要な一部なのだ。





「2021年、大木先生はサンフランシスコにあるコモンウェルズ・クラブの依頼で、「弁護士事務所を経営する傍ら小説を書いてベストセラーとなった」からという理由で講演をした。その時点では、うかつにも大木先生は、そのクラブがニューヨーク州知事であったフランクリン・デラノ・ルーズベルトがアメリカ合衆国大統領への出馬宣言をした由緒あるクラブとは知らないでいたそうだ。





なにはともあれ、大木先生はその英語での講演のために自分の書いた『株主総会』を再読することになった。作家というものは、書いて出版してしまえば自分の本への興味などなくしてしまうものなのだそうなんだ。自分の書いた小説の再読なんてしませんよ、って言っていたな。





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