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団塊の世代の物語(9)

Japan In-depth / 2024年10月15日 23時0分

「そうらしいね。僕みたいな素人にはなにもわからないけど。でも週刊誌レベルよりは上を行ってるつもりなんだけどね。でも、あなたが肺癌で手術したとはね。」





「ほら、ここ見てみて」





英子が左腕を伸ばして脇の下を右手の指で指した。





「よくわかんないなあ。内視鏡でやったっていうことだね。」





「そう。東京医大の池田教授。すぐにわからなくなりますよって言ってたけど、本当だった。





私の場合は大変だったの。





肺動脈のすぐ近くなので、MRIの画像を撮ってもよくわからなかったの。自分でも、これじゃ仕方がないなっていう気がしなくて、セカンドオピニオンをお願いして、最初は『なにもありませんよ、切られ損という言葉もありますしね。』なんて言われちゃって。」





「それって、危ないんじゃないの。放置したの?」





77歳と74歳の対話だ。病気の話になると熱がこもる。





「ううん、次の年の人間ドックでやっぱりということになって、こんどはセカンドオピニオンの先生も、「こりゃ早く切った方がいい」とおっしゃって、直行。」





でも、ふつう、そんなこと喋ってまわらないでしょうよ。あなただからアケスケに喋っているけど。」





「ま、そういえばそうだね。」





「でも聴いてくれてありがとう。あなたにはなにもかも話したい。」





英子の手術の話をききながら、三津野はつい最近の尿路結石を思いだしていた。





三重野の場合も人間ドックで見つかったのだった。7ミリになっていると言われた。





腎臓に石ができているとは6年も前から言われていたのだ。今は痛みがない。それが腎臓から降りてきたら大変、と主治医の渡辺美和子先生が心配そうに言ってくれた。





「そのときはどうしたらいいか、ご指示くださいね。」





彼女とはもう二十年の付き合いなのだ。なにひとつ心配はしなかった。





<英子にしてもこの俺にしても、金があっての話だよな>





執刀は順天堂大学の湊谷先生といった。初め衝撃波で砕くことになったのが、うまく行かなかった。





「あなたの脂肪が10ミリ厚すぎますね。」と言われた。台から降りながら、そうですかと答えるしかない。





次がファイバースコープを尿道口から入れてレーザ―で石を砕く手術になった。





全身麻酔だった。手術台に乗って麻酔が効き始めるまでの数分間、「これがこの世の見納めか」と思ったが、「なに、もう二度とみることはないのなら、見ても納める場所なんてないわけだ。」と自分でおかしくなった。





目が覚めたときには、すべて終わっていた。





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