団塊の世代の物語(9)
Japan In-depth / 2024年10月15日 23時0分
「そんなことがあったね。僕の母も同じだった。庶民はそうやって生活を守ろうとするんだよね。どうしたらいいのか、誰も教えてくれないもの。
でも、日本は凄かったね。石油ショックも克服して、1980年ころにはアメリカへの集中豪雨的輸出という状態を現出してしまったんだから。
繊維、テレビ、そして自動車」
英子が頭をベッドから出すと、仰向けになって三津野の横にならんだ。
「それが、さっきの『アメリカから見るとどうか?』っていう話になるのね。
日本の上場会社は株式会社ではない、フェアな存在ではないっていうお話。
得体の知れない不思議な生き物。株主が存在しない株式会社が上場しているだなんて、どう考えたっておかしくしか見えないって、峰夫がいつも言ってた。」
また峰夫か、とおもった瞬間、
英子が、「でも、きょうのあなたの話でよーくわかった。あの人が言っているときには、なにがなんだか分かんなかった。
あなたの話、よーくわかる。私でもわかる。ありがとう。」
思わず英子を左腕で力いっぱい抱き寄せた。
「痛い!」
「ごめん、ごめん。あんまり嬉しくってね。」
三津野は左腕の力を抜いて、左手ぜんたいを英子の胸に乗せた。乗せてから、英子の胸の乳輪について大木に聞いていたことを改めて思いだした。
<ああ、ここがそこなのか>
「だめよ、指、動かさないで。そのまま包み込んでいて」
「わかった。
では、このままで続きだ。
「ちょっと待って。あなた、薬飲んで」
「薬って?」
「今日は未だ飲んでないでしょう、バイアグラ。
私持ってきているの。長友君がくれたのよ。」
「おやおや、至れり尽くせりだ」
「そう、あの人は私にとってそういう人」
「僕に飲ませるためだって、長友氏に言ってる?」
「それは言ってない。でも、私があなたを追いかけていること知っているから、言わなくても何もかもわかってくれてると思う。」
「そうかい」
「今は空腹だからとっても効くのよ。」
英子の目がキラリと光った。
「へえ、そうなのかい。」
いつ以来かな、と思いながら答えた。バイアグラが空腹のときによく効くとは、三津野は聞いたことがなかった。
「毎朝NMNの錠剤は二粒飲んでるんだけどね。」
「あれは中長期的視点。バイアグラは超短期ね。」
「まるで株式投資の話みたいだね。」
「そうね。でも、私はNMNを飲めないの。」
「まさか」
「そう。私、3年前に肺癌で手術したから。だから、念のためにNMNは避けているのよ。長友君に相談したら、そのほうがいい、って言われて。」
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