団塊の世代の物語(9)
Japan In-depth / 2024年10月15日 23時0分
顔も体もとっても色白なのに、そこだけ黒いの。」
<そこだけ?>ということばを三津野は飲みこんだ。
「で、長友君に頼んでいいお医者さんを紹介してもらって、二人目の子が産まれたあとに整形してもらったの。大阪でたいくつだったし。」
「ふーん。大木先生は間違ってなかったんだ。いや、それどころか彼はいまでもそう信じているよ。」
「いいんじゃない。黒くて大きな乳輪の花の女王、っていう思いでっていうのも」
「ま、彼にはいわないけど。」
「言ってもいいわよ。でもね、私、整形したの少し後悔している。
あれ、あれが私だったのにどうして浅はかな考えで、って。
考えっていうより、結局は私以外の人々の考えで自分が動いたっていうことでしょう。そんなことで我が身にメスを突き立てたのかって、きれいになったピンク色の乳首を見るたびにおもうわけよ。」
「そうか。わかるような気もするし、しょせん分からない気もする。女性の大切な部分の話だからね。」
「そうなの。よく見たらわかるわよ、ほら」
英子は自分で乳首をもちあげて傷跡を指し示した。
「わからないなあ、もう」
「そう、やっぱりね。そう整形手術してくれた医者も言っていた。そのうちちっともわからなくなりますよ、って微笑みながら。
でも、それって自分が自分でなくなりますよ、っていう悪魔の微笑みだったのよね。」
「そりゃ、悪魔の微笑みなんて言われたんじゃそのお医者さん気の毒だけど。」
「そうね。決めたのは私だもの。」
「なにはともかく、そのピンク色の小さな乳首、とってもきれいだよ。
黒くて大きくても、きっと僕は同じことを言うけど。
そういえば、僕の祖母がおなじようだった。
僕の祖母は明治8年生まれで、祖母が73歳のときに僕は生まれているんだ。子どものころはいつも祖母が僕をお風呂に入れてくれていてね。銭湯にもいっしょに行っていた。耳の穴を洗われるのが嫌でね。手ぬぐいっていうのがあったろう、薄手の木綿の平織りの布切れ、それに石鹸をつけてそれを人差し指にきつく巻いて僕の耳の穴に突っ込むんだよ。祖母はとてもきれい好きだった。
腰が曲がっていたけど、豊かな胸でね。皺がよってはいても大きな乳房でね。幼かった僕は乳首を吸って『なにも出てこないよ』なんて言っていたな。
祖母はふりそでになっている二の腕をつまんで、『若かったときにゃこげなこつはなかった。張りきっとったばってんが』って、熊本弁でなんども言うんだ。
『18のころにゃ、川の近くで泥ば身体に塗って、それからバチャーンと川に飛び込むと。すると泥が溶けて、また上がってはおんなじことば繰り返して遊んどったとよ。』なんて言ってたな。
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