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団塊の世代の物語(9)

Japan In-depth / 2024年10月15日 23時0分

「じゃ、株主のための会社?」





「いや、違う。株主には経営はできない。企業にとって一番大事なのは経営だ。





上場企業の経営者は賢いから、株主の過半数の支持をいつも確保している。」





「さっき、リクツ?実態?って二ついってたけど、じゃ実態のほうはどうなの」





「実態は、幹部従業員の協同組合だね。いい悪いじゃない、日本の上場会社はそうやって生きてきたし、今も生きている。





もちろん会社によるけど、大部分の巨大な上場会社はそうだ。





これからはわからない。」





英子が黙ったままほんの少しだけ頷いた。三津野はそれを感じた己の感覚に満足し、彼女のことにはそれ以上触れずに続けた。





「実は、戦後日本の上場会社は単に幹部従業員の協働組合であっただけではないんだ。





すべての従業員、戦前は職工といわれていた不安定な身分の工場労働者も含めて、会社に勤めている人間すべてに終身雇用が保証されるようになったのさ。経営学者であるジェームズ・アベグレンっていうアメリカ人は、日本式経営には「終身雇用・年功序列・企業別組合の三種の神器」があると総括してみせた。1958年のことだ。僕は11歳、あなたは9歳のときのことになるね。





大事なのは、そいつが幹部従業員だけではなく、すべての従業員から会社への強烈な忠誠心を獲得することができる仕組みだったということなんだよ。





「アベグレンという名まえなら知ってる。続けて」





英子は石像のように動かない。





「それが日本を敗戦の虚脱から復活させ、やがて高度成長に導いてゆく。それどころか、さらに石油ショックも克服し、1980年ころにはアメリカへの集中豪雨的輸出という状態にまで行きついてしまったってわけだ。





「で、そのころのアメリカ人にどう見えてたかっていうお話なのね。」





「そう。





アメリカの人々から見るとどういう風景か?調べてみれば調べてみるほど、日本の上場会社は株式会社ではない、フェアな存在ではないと思われてくる。得体の知れない不思議な生き物。どう考えたっておかしいではないか、株主が存在しない株式会社が上場しているだなんて!





とこうなるわけだ。





ま、日本が悪いところをなんとか探り出したってとこかな。」





石像がこっくりと頷いた。





「で、1985年のプラザ合意だ。日本に円の切り上げを強制したのさ。





強制と言ったけど、独立国である日本に対してアメリカはなぜそんなことが可能だったのか、っていう疑問が浮かばないか?」





「竹下大蔵大臣が日本のゴルフ場からそのままの格好でこっそりと出国して、プラザホテルに駆けつけたって読んだことがある。」





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