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団塊の世代の物語(9)

Japan In-depth / 2024年10月15日 23時0分

満州事変が56歳のとき。まだきっと美肌で色気に溢れた女性だったんだろうな。あなたと同じだ。」





「56か。私、なにしてたかな」





「とにかく、日本の歴史開闢いらいの敗戦だ。





僕の落語もいよいよ佳境らしきものに入る。





日本的経営の凄さと崩壊の巻ってわけだ」





英子が両手を毛布から出して、エールを送るように強く握り合わせて前後に振ってみせた。





「占領軍を進駐軍と呼び変えずにおれないほど日本人は動揺していた。





でも、すぐに思い知らされる。





農地解放と財閥解体、それに東京裁判だ。





落語は財閥解体で始まる。





三菱地所が陽和不動産と開東不動産という二つの会社に分割された。その陽和不動産の株が買い占めにあったんだ。藤綱久次郎っていう株の投機家が35%の株を手に入れてしまってね。買い占めの資金は銀座の商店主から出たと言われている。





三菱側はびっくりだ。もうオーナーだった岩崎家は追い払われていない。そこで三菱グループの会社の幹部たちが集まって相談したんだ。もちろん高値で買い戻した。そりゃそうだ、三菱の中核会社だからね。





でも、大事なのはその結果なんだ。」





「へーえ、株の持ち合いって、そういうふうに始まったのね。」





「そう。株主の力から会社を守るため、だった。株を買い占めて一時的に大株主になったって、そんな奴に会社を自由にされてたまるかっていう発想だね。」





「そのセリフ、いまでもそのまま通用しそう。」





「させるかどうかが問題だがね。





でも、そのとおり。会社は誰のためにあるのかっていう根本的な問題だ。」





「私も長いあいだ考えてた。会社、っていっても広島興産っていうちっぽけな会社だけど、でも、この会社って誰のためにあるんだろう、って。」





英子はさりげなく毛布を体にかけた。





「ま、上場しているかどうかで大きな差があるよね。」





「え、どうして?」





「上場していると誰でも株を買って株主になることができる。





その他の会社、非上場の会社っていうことになるけど、それは誰のためって、経営者のためというのが原則じゃないかな。経営者イコールオーナー、すなわち株主だから。





数のうえじゃ、非上場の会社の圧倒的な部分だ。」





「じゃ、株主のためっていうのは上場会社も同じなの?」





「リクツ?実態?どっちの話が聞きたい?





リクツから言うと、誰のためっていう問い自体に意味がない。いろんな関係者、ステークホルダーがいて、その誰のためっていうのはリクツなんかでは決まらない。





はっきりしているのは、株主の過半数の賛成がないと経営者はクビっていうことだ。」





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