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団塊の世代の物語(12)

Japan In-depth / 2025年1月15日 23時0分

「『単なる約束なんてものじゃダメだ。結果が出てからのこと』とつれない返事だったんだんな。


突然の301条発令とロン・ヤスのトップ会談の決裂だ。」


「ふーん。半導体協定は知っていたけど、301条は、新聞で読んだでしょうけど、覚えていないわ」


「さすがの牧本さんが『アメリカの怒りはこれほど激しいのか』って、改めて衝撃を感じたっていうことだった聞いたんだ。身近にいた方の話だ。


『日本政府も民間も委縮することになるな。それだけでは済まない。今度のことは日本にとってトラウマになる。そしてそいつが長く長く続くことになる。』


それが牧本さんの述懐だったそうだ。」


「牧本さんて、ソニーの専務さんにもなられてる方」


スマホで探した英子が、感心したような声をだした。「僕がクライスラービルを買う前の話だ。1987年。日本中がバブルに踊っていた。時の総理大臣が輸入品を2倍買いましょう、なんて叫んでいた時代だ。」


「でもバブルの最中には、誰もバブルだとわからないものなのよね。


私は自分の経験からそう思う。峰夫がバブルのときにどれほどの大風呂敷を広げていたかよく憶えているもの。『自分の会社は近いうちに三菱地所も滝野川不動産も追い越すんだ、三井不動産、三菱地所と天下を三分する』っていう勢いだった。鈴木商店っていう、一時は三井物産をも凌いだ商社を率いていた金子直吉っていう方の言葉だって、峰夫に聞かされた。広島の一中堅不動産業者がそんな途方もない夢をもってもおかしくない雰囲気があったものね。毎日まいにちが銀行や信用金庫なんかとの宴会。でも、早起きして、目当ての土地は必ず自分で見に行くの。


滝野川不動産は目に入っていなかったみたい。ごめんなさいね。でも、あなたが滝野川を今の規模にしたのよね。峰夫の言ってたこと、滑稽な男の滑稽な夢物語だったんだし、許してやって」


「許すも許さないもないよ。ウチは三井不動産や三菱地所にはかなわない。」


「でも、トップがそう思っていなかったら、いまの滝野川不動産はないかもしれないってことでしょ」


不思議だった。三津野は会ったこともない斉藤峰夫なる人物にそこはかとない親しみを感じたのだ。同じ時代を生きていたんだと心の底に実感が湧く。英子を介しての嫉妬の対象でしかなかったのに、自分でもその変化に奇妙な気がした。


「そうか、英子さん、やっぱりあなたは同時代人なんだね。峰夫氏もまったく同じだ。わかる、わかるよ。


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