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団塊の世代の物語(12)

Japan In-depth / 2025年1月15日 23時0分

子どもができたと打ち明けたら、とっても喜んで、滝夫っていう名前をつけてくれました。オレの人生は、滝野川不動産て会社とオマエだから、会社の一字をとってこの名にするって。


で、もしオレがオマエより先に死んだら、特に未だこの子の教育が残っていたら、滝野川不動産の三津野信介を訪ねてゆけ。あいつには言い置いておく。あいつなら必ずなんとかしてくれる、って。』


丸山相談役が僕を信頼していたのはわかっていたし、たぶん、僕を社長にするつもりだったから、そんなことが言えたのかもしれない。越前谷社長を出し抜いて会長だった丸山さんが遠山さんを社長にした話はしたろう。


でも、僕が社長になる前に自分が死んでしまうとまでは彼の予定表にはいっていなかったんだな。」


「たぶん、予定表に入っていたんじゃないかしら。


でも、その元芸者の女性にあなたを訪ねさせて、丸山さんて方の遺言を告げさせれば、あなたがなんとかしてくれる、って思っていたんじゃないかしら。三津野信介、見込まれたものね。


私、丸山さんていう方の気持ちよおく分かります。見込まれて当然のニッポン一のいい男!


よね」


英子は得意気だった。


「ふーん、あなたにはそんな風に見えるのか。」


「もちろん。


で、なにをしてさしあげたの?」


こんどは興味津々といった風情だ。


「うん、しかたがないから、遠山社長と越前谷会長にこっそり話して、系列の財団の事務をやってもらうことにした。大した給料は払えないけれど、って言ったら、彼女、『ありがとうございます。やっぱり、三津野さんていう方は私の丸山秀夫が見込んだ方でした。』って、涙を流してくれた。


「ふーん、そんなことしたの。いいことしたわね。」


「ああ、月に20万、30万という金が大事なんだよ。


それは、川野さんにいろいろな機会に教えられたことの一つだ。上ばかり見ていた僕、上昇することにしか関心のなかった僕にとっては、新鮮で、為になる教えだったよ。


『三津野君、あなたには理解できない界かもしれないけれど、世の中には誠実に、自分の置かれた場所で、期待されていることを一生懸命に果たしていながら、不運に見舞われてしまう人がいる。組織はそういう人がいないと成立しない。でも、上からは見えないことが多い。そういう人にとって、不運な運命にみまわれたとき、ほんの少しの助け、感謝に添えた金銭的な援助がどれほどの有難みを持つことか。君にもそういうことが分かる日が来る。君はそういうことを分かるために生きているんだ。きっとそうなる。君はそういう立場になるんだから。でも、今のように上ばかり見ていちゃダメだよ。上になったら、下を見ることができないと、組織に属している下の人たちが気の毒だ。」


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