1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

団塊の世代の物語(12)

Japan In-depth / 2025年1月15日 23時0分

「丸山相談役が亡くなったときには大変なことがあったんだ。」


「待ってました。」


英子が合いの手を入れた。


「よせやい。会社にとっちゃ重大事だったんだ。


「通夜の席に隠し子を連れた母親が現れてね。


社葬だからな。遠山社長が葬儀委員長だったけど、事務方筆頭の僕を呼んで、「君、なんとかしろ」だ。


そういわれてもなあ。会ったことも、聞いたこともない人たちだしね。


でも、丸山相談役はいかにも玄人女性が惚れるようなキップの良さがあったな。


だから、惚れられて、本気になられて、子どもができたってわけだ。


でも、丸山相談役って人は、会社では強面だけど、家では奥さんに頭があがらない。そりゃそうだ。同じ病気にかかっては、そのたびに奧さんに平謝りに謝ってばかりいたんだからね。無理もない。でも、病気はなおらない。最後の病気が死後に表に噴きだしたてことだ。


僕がたくさんの人がいる通夜の席から離れたところにある別室に二人を呼んで話した。


「私どうしたらいいんでしょうか」ときた。女性は40前でいかにもその筋の女性っていう感じで、色気が首筋からむんむんしていた。子どもは10になっていなかったかな。


丸山さんとは41歳違いだっていう女性は、芸者をしていて料亭で知り合った。思えば、未だあのころには芸者さんっていうのがいたんだな。


で、丸山さんが惚れて、口説いた。口説かれても彼女は応じなかった。30歳の女性と71歳の男だもの。


すると、丸山相談役はムキになった。ムキになれば熱もあがる。上がらなくていい熱が上がると、当たり前なら口にしない口説きになってしまう。」


「それで、丸山さんの二号さん、ていうのかな、お妾さん、いえこれも古い言い方ね。今ふうにいえば愛人、なんて言ったの?」


「うん、別室で僕の顔をつくづくと眺めてから、『三津野さん、三津野信介さんておっしゃるんですね』って僕の名をきちんと字まで確認するんだ。


はあ、三津野です、信じる紹介って書く信介です、って答えたよ。


そしたら、なんて言われたと思う?


彼女、『あの人、私の面倒をすべて見るって約束してくれたんです。私も好きでした。ですから、芸者も不義理でしたけど辞めました。6300万円、即金で払ってくれました。それからはあの人のためだけに生きていました。愉しかった。あの人、時間も少し余裕があるみたいで、『今日は財界のくだらない会合だから』なんていって、二人で、いろいろなところへ出かけるんです。こっちが心配になってしまうくらい。知り合いの多い人だけど、「やあ」なんて挨拶して、それだけ。相手はなにか分かりすよね。


この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください