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世界が明るいほど闇が深くなる…? 鳥山明作品に垣間見るドライでシビアな「視線」

マグミクス / 2024年4月21日 7時10分

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■明るくパワフルな鳥山ワールドの影にあるもの

『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』などの作品で世界的に有名な鳥山明先生。おおらかなギャグや緻密なメカ描写、そして何より派手なバトル演出が目立ちますが、その裏には世界に対するドライでシビアな視線が感じられます。

 鳥山明先生の作品の根底に横たわる、言ってしまえば「諦念」のようなものについて振り返りましょう。

●このおろかな星はもうだめじゃ 『Dr.スランプ』

 1980年に集英社「週刊少年ジャンプ」にて連載が始まった『Dr.スランプ』は、のどかなペンギン村を舞台に、自称天才科学者「則巻千兵衛(のりまきせんべい)」と、彼が作った少女型ロボット「則巻アラレ(のりまきあられ)」、なんでも食べる「ガッチャン」たちがさまざまな事件を巻き起こすギャグマンガです。

 基本的には一話完結型のギャグマンガなので、時間停止のしすぎで千兵衛が老人になってしまったり、アラレちゃんのパンチで地球が割れたりしても次のエピソードでは元通り、本当に深刻なイベントは何ひとつ起きません。天真爛漫で怪力のアラレちゃんは今でも根強い人気を誇ります。

 そんなおおらかな世界観の『Dr.スランプ』ですが、明るさの裏にはある種の諦念が垣間見えます。コミックス8巻に収録されている「ガッチャンの正体!!の巻」から3話続いたエピソードでは、世界の創造主である神がペンギン村に降り立ちました。神はガッチャンを見つけてこう言います。

「このおろかな星はもうだめじゃ。おまえたちの数をもっとふやし、たべつくしてしまえ! よいな」

「罪のない人間たちや動物たちには気のどくだが、やむをえんことだ」

 実はガッチャンの正体は天使で、送り込まれた星に危険な文明が栄えた時に食べ尽くす使命が与えられていたのです。

 悪人などいないかのように見えた『Dr.スランプ』の世界は、滅ぼすに値するほどダメになっているようです。どんなに深刻な問題が起きてもなかったことになるギャグマンガの世界でこの展開ですから、驚かされた人は多いのではないでしょうか。

 しかしその後、神は地球を滅ぼすのをやめます。アラレちゃんたちと遊びながら楽しそうに笑っているガッチャンの姿を目にしたからです。決して人類が思ったほど悪くなかったと判断したわけではありません。

「ま、いいじゃろう」「どうせほっておいてもこの星はほろびてしまう このままいけばな」という、かすかな希望と乾いた諦念によって滅亡を先延ばしにされただけに過ぎないのです。

 ウンチを棒で突っついたり、喫茶店のウェイトレスのパンツを覗こうと必死に努力するような愉快な毎日を送るギャグマンガに「そんな毎日も長くは続かないのだ」というメッセージを読み取れるエピソードが3話にわたって掲載されたのですから、鳥山先生はかなり強い問題意識を持っていたのでしょう。

 そして、人類は愚かなのでやがて取り返しのつかないことをしでかしてしまう、世界は滅びに向かっているという世界観は、その後の作品からも読み取れます。

■悪魔よりワルだなんて許されると思うか? 『SAND LAND』

映画『SAND LAND』(2023年)シーンカット (C)バードスタジオ/集英社 (C)SAND LAND製作委員会

 2000年に「週刊少年ジャンプ」にて連載された『SAND LAND(サンドランド)』では、まさに人類がやらかしてしまった後の世界が描かれています。『SAND LAND』の世界は、人類の愚かな行動と天変地異によって水が枯れ果てた荒野です。唯一の水源を持つ国王が全ての水を独占し、高値で国民に売りさばいています。

 鳥山明先生の画力と演出で隠されていますが、『SAND LAND』は映画『マッドマックス 怒りのデスロード』(2015年)を思わせる、殺伐とした世界観のマンガだといえるでしょう。

※以降、物語の核心に触れる記述がありますのでご注意ください。

 そのような環境のなか、初老の保安官「ラオ」は悪魔の王子「ベルゼブブ」と、彼の付き人の魔物「シーフ」をともなって、国王に支配されていない水源「幻の泉」を探す冒険に出発しました。そこで彼らは驚くべき真実を目にします。

 実は世界から水は枯れ果てておらず、それどころか海に溢れだすほど余っていました。国王軍はダムを築いて水を独占し、支配と金儲けに使っていたのです。しかも国王を操る「ゼウ大将軍」は、水を製造する装置を作っていた「ピッチ人」を目障りに感じ、彼らが「サンドランドを滅ぼす兵器を作っている」と喧伝します。さらに、気に食わない「シバ将軍」についても、彼が率いる戦車隊ごと大爆発事故を装って虐殺していたのです。

 シーフからピッチ人の真実を聞かされたラオはショックを受けます。実はラオこそ、死んだと思われていたシバ将軍で、「サンドランドを滅ぼそうとする」ピッチ人との戦いで戦車隊の指揮をとっていたからです。

 ラオは真実を知るまで、謎の大爆発はピッチ人の作った兵器の仕業で、自分の行いは正しいものだと信じ込んでいました。潤沢にある資源の分配を絞って支配したり、善人が金と権力の亡者に操られて取り返しのつかない悪に手を染めてしまったりする構図は、極めて政治的だといえるでしょう。

『SAND LAND』は、全ての黒幕であるゼウ大将軍を倒し、ダムを破壊して水を分け与えるハッピーエンドを迎えますが、実は作中で語られていない、重要な裏設定があります。

●人間は神ではなく悪魔が娯楽のために作った

 2023年に刊行されたコミックス『SAND LAND完全版』巻末のインタビューで、鳥山明先生は衝撃の設定を語っています。『SAND LAND』の世界では「ほとんどの生物は神が作ったが、人間は悪魔が娯楽のために自分たちに似せて大幅にグレードダウンした生物として作った」「いつしか凶悪さで悪魔を上回る人間が現れはじめたので神から苦情が来ている」「悪魔の王サタン(ベルゼブブの父親)も人間撲滅を考え始めた」とのことです。

 これらの内容は、2014年に刊行された通常版『SAND LAND』では明かされていませんでしたし、作中でも触れられていません。『SAND LAND』はラオとベルゼブブたちが奪った戦車で悪のゼウ大将軍を倒すという痛快な冒険活劇ですが、隠された設定を知ってしまうと「人間の悪」に対する絶望感が漂ってきます。『Dr.スランプ』から20年以上を経ても、鳥山先生の人間や世界に対するシビアな目線は変わっておらず、それどころかより厳しくなっていたようです。

 短編を含む鳥山先生の作品の多くには、とんでもない力を持った超人が登場します。鳥山先生が数多くの超人とその活躍を描いてきたのは、世界への絶望感や諦念に抗うカウンターだったのかもしれません。

(レトロ@長谷部 耕平)

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