2本の連載が同時進行の「シャーマンキング」 作者が実現したい理想の物語構造とは?
マグミクス / 2020年5月9日 16時10分
■「本線」を止めずに別エピソードを描く試み?
「シャーマンキング」シリーズの最近の作品では、「少年マガジンエッジ」で武井宏之氏が連載中の最新作『SHAMAN KING THE SUPER STAR』と、ジェット草村氏によるふたつの作品『レッドクリムゾン』と『マルコス』があります。同時期の別の場所を扱ったこれらの作品が、ほぼ同時に提供されているのにはどういう理由があるのでしょうか? なぜ武井氏は、新たに原作を作ってまで作品が並行的に存在することを選んだのでしょうか?
前回の連載記事では、物語の内容面から考察しました。前提として、歴代のシャーマンキング達による代理戦争「フラワー・オブ・メイズ」が行われるにあたり、今代と先代キングとの確執・対立をベースにした主人公の成長や、未来の展望などが描かれている作品であること。それらひとつひとつをしっかり掘り下げる必要があるなら、共通のベースを持っていても作品は分ける必要がある……ということを述べました。
しかし、そうであれば武井氏自らが順番に執筆していくやり方もあります。むしろ、通常のマンガはそうです。すべてがひとつの連載のなかで行われ、途中で過去エピソードが入ると、それを描いている間は本線の進行が止まります。それが長期に及ぶマンガもあります。描く量の問題だけなら、同じ方法を採ることもできました。
注目すべきポイントは、『SHAMAN KING レッドクリムゾン』と『SHAMAN KING マルコス』の執筆が武井氏ではないということと、両作品は武井氏が設定から内容まで細かく関わっていることです。
「シャーマンキング」を扱っているというだけで「原作」と表記されているのではありません。内容はもちろん、新規キャラクターのデザインも行っています。ジェット草村氏も武井氏の絵のイメージを崩さないように執筆し、読者の違和感を抑えようとしています。両氏に厚い信頼関係があることは明らかで、極論すれば武井氏がふたりいると言ってよいでしょう。となると、両作品は「本線を止めずに描かれている別エピソード」=「どちらも本線」ということになり、これによって理想を実現しようとしているのです。
■武井氏が実現したい「理想」とは?
『SHAMAN KING レッドクリムゾン』(4巻、左)と、2020年4月に連載開始した『SHAMAN KING マルコス』の予告カット(右)。どちらもジェット草村氏がマンガを担当 (C)武井宏之・ジェット草村/講談社
皆さんは、好きな作品の新キャラを掘り下げた話や、一方その頃……といった話を読みたいと思ったことはありませんか? 漫画家も伝えたいと思っています。アイデアは湯水のように湧いて出てくるのです。しかし現実は膨大な物量がハードルになり、なかなか実現できません。今の武井氏は、そこに光が見えている状態だと言えるわけです。
現時点での「シャーマンキング」シリーズの全体構造は「ホウキ型」です。ホウキ型というのは、まず一本道の物語があって、ある点で分岐しそのまま終わる構造のことです。原点である『SHAMAN KING』が一本道の部分、そこから『FLOWERS』『レッドクリムゾン』『マルコス』『SUPER STAR』に分岐しています。同時に作品が存在するので横に並んでいるのです。また、『SUPER STAR』は『FLOWERS』につながったり、独立していたりします。
読者は、どの作品からも自由に楽しむことができます。描かれる順番を待つ必要もありません。マンガ家にしてみれば、そのおかげでスピード感も上がります。これを可能にする、「マンガ連載で同時多発」というのは、武井氏(もしかしたら多くのマンガ家)がやりたくてもできなかった理想のスタイルというわけです。
何が難しいことなのか、まだピンとこない方もいらっしゃるでしょう。前例が多くあるように思えるかもしれませんが、連載作品はできあがったものを分割して掲載しているわけではありません。読者の反応を確かめながら、時に新たなアイデアを盛り込んだり、路線変更をしたりしながら毎回生み出されるものです。その営みが同時に複数あって、調整し整合性を保つには、作品制作とは別の視点と苦労が伴います。
次に、信頼の置ける、長く付き合えるパートナーはそう簡単に見つかりません。マンガ家はひとりの表現者としてプライドを持っています。しかし『レッドクリムゾン』も『マルコス』も、ジェット氏にお任せではないのです。中身に細かく関わる原作者と上手く付き合い、絵を似せられる(もしくは元々似ている)。武井氏はそういう人と出会えたのです。
なお、シリーズ構造の今後ですが、どう考えても分岐したまま終わるわけはなく、いずれ「逆ホウキ型」となって合体するでしょう。分岐した物語はどこかで集束し、1本の強烈なインパクトを持った物語として、私たちの目の前に提示される……はずです。
連載の楽しみは、それが本当なのか、いつなのかを予想できることなので、みなさんもぜひ想像してみてください。
(タシロハヤト)
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