未完の絶筆『男の星座』 希代の劇画原作者、梶原一騎が命を燃やし尽くした光を心に刻む
マグミクス / 2020年5月12日 19時40分
■物語は第1話から最高潮に
フィクションに実在の人物を登場させることで生まれる迫真のリアリティ……1966年に講談社「週刊少年マガジン」で連載が開始された『巨人の星』や、同社の「ぼくら」にて掲載された1968年の『タイガーマスク』、そして1971年の『空手バカ一代』や、1980年から小学館「週刊少年サンデー」の誌面を飾った『プロレススーパースター列伝』など、希代の劇画原作者、梶原一騎氏の作品には、そんな手法の数々を見ることができます。
特に1985年5月24日号の「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)で連載開始した『男の星座』は、リアルとファンタジーを織り交ぜた一連の“梶原フィクション”のなかでも究極の作品といえるかもしれません。
同作は「梶原一騎引退記念作品」と銘打たれており、いわば自伝“的”作品で連載開始前の2年前である1983年に死亡率が100%に近いといわれる壊死性劇症膵臓炎に倒れ、自らの“夕暮れ時”を悟った梶原一騎氏が文字どおり、命をかけ、「真っ白に燃え尽きた」ライフワーク的な物語。1987年1月21日、50歳の若さで梶原一騎氏は亡くなるのですが、それゆえに「男の星座」も未完という形で幕を閉じています。
物語は、主人公である「梶一太」の青春群像劇。「昭和の巌流島決戦」といわれた力道山対木村政彦のプロレスの試合からスタートするのですが、作画を原田久仁信氏が担当しているだけあって、あたかも『プロレススーパースター列伝』の「力道山編」を見ているかのような錯覚に陥ります。──木村政彦が血まみれで“白いマット”に倒れる「戦慄とボーゼンの蔵前国技館」で突如、起ちあがる“第三の男”大山倍達……このように物語は第1話から最高潮を迎えます。
ちなみに梶原一騎氏はこの『男の星座」のプロローグとして、“さらば! 友よ”という一文を自ら執筆しているのですが、そこではこの作品が“引退作”であることと、「私の代表作とされる無数の作品群の母胎とも称ぶべき最終作ともなろう」という言葉とともに、『巨人の星』や『あしたのジョー』、『愛と誠』『タイガーマスク』『空手バカ一代』などの誕生秘話が明かされることがほのめかされているのですが、残念ながら先述のとおり“絶筆”という形で連載が終了しています。
■「私は“男の世界”を描ける作家になれた」
『男の星座』の最終巻である第9巻(グループ・ゼロ)
また、梶原氏は同じ文章のなかで「完全なる自伝」とも書いているのですが、そもそも主人公の本名が「高森朝樹」とはまったくの別の、梶原ファンタジーとなっています。やはりこれは『空手バカ一代』の冒頭で書かれたヘミングウェイの言葉のとおり「事実をありのまま伝えるという行為は いかなる面白い創作をするよりも困難な作業である」ということなのでしょう。余談かも知れませんが、このヘミングウェイの言葉も、梶原一騎氏の創作、とのことです。
つまりは、この『男の星座』に登場する人物や、さまざまに交錯するエピソードなどは、例のごとく本当かどうか分からないものが多いのですが、しかし、作品としてツマラナイのかと問われれば決してそうではありません。「梶一太」という名にはなっていますが、梶原一騎氏の半生が、じつにドラマチックに、なおかつロマンチックに劇中では生き生きと描かれています。
もちろん、『空手バカ一代』に登場した「有明省吾」のモデルとされた「春山章」ですら架空の人物だったと知った時、かなりショックを受けたのは正直なところですが、筆者自身の心に刻まれた「真っ白な灰になるまで燃え尽きる」や「どんな時も坂道を登っていく、男が死ぬときは、たとえそこがドブの中であろうとも前のめりに死んでいたい」という、『あしたのジョー』や『巨人の星』から授けられた言葉は誠実(まこと)のものです。「坂道」のくだりの坂本龍馬の言葉が、またしても梶原一騎氏の創作であろうとも、問題ではありません。
「さまざまな男たちの群像、すなわち“男の星座”を遊泳し、交錯し、その光りを浴び、反射し、輝き合うことで私は謂ゆる“男の世界”を描ける作家になれた」と冒頭で梶原一騎氏が語っていますが、昭和の時代を生きたアラフィフ世代の方々も“梶原一騎”という“星座”の光を浴びたからこそ今がある……という方も多いのではないでしょうか?
希代の劇画作家、梶原一騎氏が最後に命を燃やし尽くした『男の星座』。ぜひとも皆さまに読んでいただきたい作品です。
(渡辺まこと)
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