食わず嫌い多し?『ノイエ銀英伝』 原作や石黒監督版アニメとの違いも面白い
マグミクス / 2020年5月17日 19時40分
![食わず嫌い多し?『ノイエ銀英伝』 原作や石黒監督版アニメとの違いも面白い](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_28068_0-small.jpg)
■累計1500万部越えのスペースオペラ『銀英伝』、2度目のアニメ化
人気作家・田中芳樹氏の代表作で、第1巻が発売された1982年から現在までのシリーズ累計発行部数は、1500万部以上という超人気SF小説『銀河英雄伝説』(以下、銀英伝)。1988年からスタートしたアニメ化プロジェクトは約12年続き、長篇3作と、OVA(オリジナルビデオアニメ)全162話(本伝110話、外伝52話)が制作されました。さらに、2018年には『銀河英雄伝説Die Neue These(ディ・ノイエ・テーゼ)』(以下、『ノイエ銀英伝』)として、2度目のアニメ化プロジェクトもスタート。まさに世代を超えて愛され続けてきた作品で、4月6日からは『ノイエ銀英伝』のファーストシーズンとセカンドシーズン(全24話)がNHK Eテレで放送中です。
前回のアニメ化から年月が経過していることもあり、新たなスタッフやキャストにより制作されている『ノイエ銀英伝』。当然、ビジュアルやキャラクターの声などは、故・石黒昇監督(総監督)らが制作した最初のアニメとは異なっています。しかし、違いは、そういった表層的なことだけではありません。作品の随所に、多田俊介監督をはじめとした新たなスタッフによる新解釈やこだわりもつまっているのです。
例えば、第2話の初放送時、主人公のひとりで自由惑星同盟軍の英雄であるヤン・ウェンリー(CV:鈴村健一)の補佐役が比較的地味なキャラのラオ(CV:畠中祐)だったことは、一部の『銀英伝』ファンの間で話題になりました。石黒監督版で、その役割を担っていたのは人気キャラのダスティ・アッテンボロー(CV: 石川界人)だったからです。しかし、実は、原作でアッテンボローの名前が初めて登場するのは第2巻。しかも、ヤンの命令を説明する記述のなかに名前があるだけで、実際に活躍する姿が描かれるのは第3巻から。石黒監督版では、ラオの役割を割り振ることで、原作でも後に重要なキャラとなるアッテンボローの登場を早めていたと考えられます。そのため、原作を通っていない石黒監督版のアッテンボローファンからは不満の声もありましたが、事情を知るファンには、石黒監督版のリメイクではなく、あくまでも小説を原作として新たにアニメ化するという『ノイエ銀英伝』のスタンスが早々に伝わりました。
■原作に準拠しつつ、アニメとしての魅力を高めるためのアレンジも
シェーンコップのイゼルローン要塞潜入シーン (C)田中芳樹/松竹・Production I.G
とはいえ『ノイエ銀英伝』も、まったくアレンジなしに作られているわけではありません。原作に合わせた場合、セカンドシーズンまでにアッテンボローの出番はなくなるのですが、『ノイエ銀英伝』での初登場はファーストシーズン最終話の第12話。原作小説の本伝(全10巻)の完結後に刊行された外伝2巻での記述を元に第十艦隊の分艦隊司令官として初登場すると、続くセカンドシーズンでも、原作での空白期間を埋める形でオリジナルの登場シーンが作られています。
また、NHK Eテレの放送で初めて『銀英伝』の物語に触れている人にとっては、ネタバレにもなるのですが、5月18日(月)に放送される第7話では、序盤のクライマックスであるイゼルローン要塞の攻略作戦が描かれます。ヤンの部下となった本作屈指の伊達男ワルター・フォン・シェーンコップ(CV: 三木眞一郎)が、わずかな部下とともに敵国(銀河帝国)の軍人に変装して難攻不落の要塞に潜入、無力化するという危険な任務に挑むのですが、原作で、シェーンコップらが要塞に潜入後、作戦を終えるまでの描写は(新書版で)わずか3ページほど。石黒監督版のアニメも作戦開始から終了までの描写は、ほぼ原作に準拠した流れになっています。
しかし、『ノイエ銀英伝』では、作戦全体の大枠は変わらないものの、帝国軍人に変装したシェーンコップと、彼を疑う要塞司令室警備主任レムラー(CV:松田健一郎)との緊迫感ある駆け引きが展開。白兵戦の達人であるシェーンコップの強さだけでなく、頭の回転の速さや、どんな場面でも動じない胆力、伊達男らしい口のうまさなども存分に発揮されたシーンとなっています。
そういった形で原作の展開に準拠しながらも、必要とあらばそれを膨らませたり、合間に細かな描写を積み重ねたりもしている本作。当然、初めて『銀英伝』の物語に触れる人でも予備知識ゼロで楽しめる作品となっています。また、原作や石黒監督版アニメからのファンであれば、多少のアレンジや表現の違いでは揺らがない『銀英伝』の骨太な魅力を改めて堪能しつつ、本作ならではの描写の意味を考察するのも、新しい『銀英伝』の楽しみ方かもしれません。
※記事中の担当声優は『ノイエ銀英伝』版です。
(丸本大輔)
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