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ジョージ秋山さん追悼…『アシュラ』『銭ゲバ』は少年誌に載った哲学だった

マグミクス / 2020年6月6日 17時10分

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■44年続いた『浮浪雲』完結後も、次回作を構想中だった

 漫画家のジョージ秋山さん(本名:秋山勇二さん)が、2020年5月12日に亡くなりました。享年77歳。『浮浪雲』を長年連載していた小学館のビックコミックオリジナル編集部によって、6月1日に発表されました。葬儀は近親者で済ませたそうです。

 秋山さんは1943年東京都生まれ、栃木県足利市育ち。『丸出だめ夫』などで知られる漫画家・森田拳次さんのアシスタントを経て、1960年に『ガイコツくん』でデビュー。1961年から連載がスタートした『パットマンX』などのギャグマンガで人気を博しました。

 1970年には、問題作『銭ゲバ』と『アシュラ』を立て続けに発表。少年マンガ誌6誌に連載を持ち、年収5000万円と目されるほどの売れっ子漫画家となりましたが、1971年にはすべての連載を終えて引退宣言をします。

 放浪の旅を終えての復帰後は、次第に青年マンガ誌を活動の場に移し、1973年からスタートした時代劇マンガ『浮浪雲』は、2017年まで続く大ロングラン連載となりました。小学館によると、次回作を構想中だったそうです。

■有害図書扱いされた問題作『アシュラ』

 秋山さんの数多い代表作のなかでも、読者にもっとも強烈なインパクトを与えたのは『アシュラ』ではないでしょうか。『アシュラ』のテーマは、カニバリズム(人肉食)。当時、大変な人気を誇っていた「週刊少年マガジン」(講談社)というメジャー誌での連載でした。

 中世の日本。飢饉によって食べ物はなく、主人公・アシュラを身篭っていた母親は、人間の死体を食べることで生き延び、アシュラを出産します。しかし、空腹状態の母親からは母乳は出ず、母親は幼いアシュラを焼いて食べようとするのです。飢えた人間は、獣と同じように本能に従って生きることが、生々しいタッチで描かれています。

 あまりにも衝撃的だった『アシュラ』の第1話は波紋を呼び、一部の自治体で有害図書扱いされる騒ぎとなりました。当時の秋山さんは27歳。人間が同じ人間を食べるという、人間のもっとも深い“業(ごう)”を、秋山さんはマンガ表現でえぐり出そうとしたのです。

 伝説のマンガとなった『アシュラ』は、2012年に劇場アニメーション化されています。残酷描写はかなり抑えた表現となっているものの、苦悩を繰り返しながら成人したアシュラの姿を見ることができます。ラストカットまで、見逃さないようにしてください。

■日本テレビ系で連続ドラマ化された『銭ゲバ』

『銭ゲバ』文庫版上巻(幻冬舎)

 若手時代はギャグマンガを手掛けていた秋山さんにとって、転機作となったのが『銭ゲバ』でした。『アシュラ』と同じ1970年に、「週刊少年サンデー」(小学館)で連載されました。

 こちらも超シリアスな内容です。主人公の風太郎は、貧しい母子家庭で育ちました。優しい母親は病気がちですが、入院させるお金がありません。母親を病死で失った風太郎は、お金のためなら殺人もいとわない冷血な人間になってしまいます。

 2009年に松山ケンイチさん主演作として、日本テレビでTVドラマ化もされているので、覚えている人は多いのではないでしょうか。脚本は、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』など、心温まるヒューマンドラマを得意とする岡田恵和さん。リーマンショック直後の「派遣切り」など、リアルな世相を盛り込んでいました。

 原作マンガもTVドラマ版も、最終的には風太郎は財産と名声を手に入れることに成功します。それでも、多くの人を犠牲にしてのし上がった風太郎の心のなかは、満たされることがありません。現代と中世という時代の違いはありますが、風太郎もアシュラも自分は何のために生まれてきたのかという疑問を抱え、悩み続けることになるのです。

■「魂のふるさとへ帰れ」と叫ぶ『デロリンマン』

『デロリンマン』kindle版第2巻(eBookJapan Plus)

 1960年代後半から1970年代初頭は、日本各地の大学で「全共闘」運動が吹き荒れた時代でした。『アシュラ』も『銭ゲバ』も、とんがった時代の風潮を、秋山さんが読み取った作品だと言えそうです。『アシュラ』『銭ゲバ』を発表した1970年の前年、秋山さんは『デロリンマン』の連載を「週刊少年ジャンプ」(集英社)で開始します。

『デロリンマン』はギャグマンガにジャンル分けされていますが、非常にシリアスかつ不条理な設定で、子供たちの脳裏に深く刻まれた作品でした。

 主人公のデロリンマンは、美しい妻や元気な男の子に恵まれたサラリーマンが自殺に失敗した成れの果てです。かつてはハンサムだったものの、飛び降り自殺で顔は潰れてしまいました。そんなデロリンマンは「魂のふるさとへ帰れ」と叫びながら、正義のために闘おうとします。しかし、あまりにも醜い姿をしたデロリンマンはただの変質者にしか見えず、誰も耳を貸そうとはしません。

 不条理なギャグマンガ『デロリンマン』のなかで忘れられないのが、デロリンマンと対立する「オロカメン」と呼ばれる謎の覆面男です。正義のために体を張るデロリンマンに対し、その様子をビルの屋上から眺めていたオロカメンは「おろかものめ……」とののしるのです。

 デロリンマンはその後どうなったのか? オロカメンの正体は何者だったのか? ネット検索すれば、その答えは簡単に分かります。でも、心のなかのモヤモヤは残ったままです。デロリンマンが語っていた「魂のふるさと」は、どこにあるのか。デロリンマンとの出会いから数十年が経っているのに、まだその回答を見つけることができずにいる自分を、ビルの屋上から「おろかものめ……」とオロカメンが見つめているような気がするのです。

 子供の読者が大半だった少年マンガ誌で、人間が生きる意味をジョージ秋山さんは繰り返し問い掛けてきました。子供たちにとって、少年マンガ誌に載った秋山さんの作品は、初めて触れる哲学書のような存在だったのではないでしょうか。

(長野辰次)

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