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阿笠博士「じゃ」の口調って実在する? マンガに潜む「役割語」のルーツを追う

マグミクス / 2021年8月23日 18時10分

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■現実にはいない「役割語」を話すキャラクターたちの知られざるルーツを暴く!

「わしの言うことを聞くのじゃ」
『ポケットモンスター』のオーキド博士、『名探偵コナン』の阿笠博士などが使うこの「博士言葉」。現実でこんな口調の博士にお目にかかる機会はないでしょう。ところが、このようにフィクションではなぜかもっともらしく存在し、その人の特徴や役回りを示すものを「役割語」と言います。

「博士語」だけではありません。語尾に「アル」をつけて喋る中国人キャラや、「よろしくて?」など過剰包装された丁寧語を使うお嬢様キャラなど、現実ではなかなか聞かないけどフィクションでは当たり前の言葉たち……一体、これらはどこからやってきたのでしょうか。幸いにも『ヴァーチャル日本語役割語の謎』(著:金水敏)という優れた先行書籍が岩波書店より出ているので、こちらを参考にしながらマンガ・アニメの世界に横たわる「役割語」の起源を概説していきます。

●老人・博士語の起源は…江戸時代にさかのぼる!

 さて「わし〇〇じゃ」に代表されるような博士語(老人語)はどこからやってきたのでしょうか。『ヴァーチャル日本語役割語の謎』によるとその歴史は18世紀末から19世紀にさかのぼります。長らく方言雑居状態だった江戸に若年層を中心に共通語が生まれ始めた頃、医者や学者といった“博士的”人々が好んで用いていたのが関西よりの上方言葉(「わし〇〇じゃ」口調)でした。江戸言葉より上方言葉の方が格調高いものだったのかもしれません。これが戯作などに転用され、今のイメージが形成されたのです。つまり阿笠博士たちが話しているのは、ざっくりいえば「上方言葉」と言えます。

●「~アル」は中国人キャラだけじゃなかった?

 中国人キャラが用いる「アル」という語尾も代表的な「役割語」です。『Dr.スランプ』の摘家、『銀魂』の神楽、『らんま1/2』のシャンプーなどがすぐに思い出されます。その起源は明治時代、貿易港で外国人らが用いていた単純化された日本語だと言います。いわば通じることを最優先にした簡易言語です。この口調は当時、中国人だけでなく、欧米人も使用していたことは注目すべきです。やがて日中関係が悪化し気づけば中国人の表象のみに使用されていきます。時間が経過し、今では無邪気に用いられているこの「あるよ」口調ですが、はこうした歴史的経緯がありました。

●「よろしくて?」 お嬢様言葉はもともと下品とされていた?

『エースをねらえ! 』のお蝶夫人に代表される「よろしくて?」「~ですわ」といった「お嬢様言葉」もまた立派な役割語です。実はこのお嬢様言葉、現在とは逆に下品な言葉遣いとされていました。というのもこのお嬢様言葉のルーツは山の手言葉や芸者言葉とされ、これらが女学生たちを中心に拡散。大人たちは“品格”を損ねるとして眉をしかめていました。ところが「女学校」の社会的価値が高まるにつれ、女学生たちが好んで使っていたこの言葉が進歩的で高尚な雰囲気をまとい始めたのです。下品な言葉から「お嬢様言葉」へと転じた瞬間でした。ところが二度の大戦で女学校文化そのものが断絶。戦後、「お嬢さま」の幻影を求める少女たちが生み出したものが少女マンガにおける「お嬢様キャラ」に他なりません。

 ここまで日本のアニメ・マンガカルチャーに代表される役割語の起源について解説してきました。ひとつの口調が「役割語」として一般化するには想像以上の年数が必要であることがまず驚きです。

 またこうした「役割語」を用いているキャラクターにはある共通点があります。それは基本的にサブキャラクターであること。「役割語」は読んで字のごとく、そのキャラクターが果たす役割を示すもので、細かい心情描写の省略を意味しています。役割が固定されているからこそ「役割語」を話している、とも言えます。

 ここ二十年ほどで「ギャル口調」だったり「オタク口調」だったり、新たな「役割語」がいくつも誕生しています。何十年後、こうした言葉たちがマンガのなかだけで生き残っていることも十分ありえます。「役割語」こそマンガ・アニメから歴史を覗き込むタイムマシンと言っても良いでしょう。

主要参考文献:『ヴァーチャル日本語役割語の謎』(著:金水敏/岩波書店)

(片野)

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