『家さえあれば大丈夫』西成で生活困窮者への居住支援を行う男性 雇い止めにあった人、拘置所からやってきた人らをサポート...しかし中には家賃を払わず逃げ出す人も それでも手を差し伸べ続ける理由とは
MBSニュース / 2024年3月22日 12時44分
「大丈夫、家さえあればなんとかなる」と、生活困窮者への居住支援を続ける男性。助けを求める声に手を差し伸べますが、支援をした人物に“裏切られる”という悲しい現実もたびたび経験しています。それでも彼が支援を続ける理由とは。
10年間で3000人以上を“すぐ住める家”へとつなぐ
(電話で話す生活支援機構ALL・坂本慎治代表)「そこで死ぬとか言うぐらいだったら、大阪来て人生やり直した方がいいと思いますよ」
大阪市西成区の“あいりん地区”にあるNPO法人「生活支援機構ALL」。坂本慎治さん(36)は、不動産業を営む傍ら、住まいを失った人たちに向けた居住支援を続けています。メールや電話で寄せられる生活困窮者からの相談は多い時で月に300件ほど。10年間で3000人以上を“すぐ住める家”へとつないできました。
この日、坂本さんのもとを訪れたのは、気温10℃を下回る中、数日間、公園で野宿をしていたという男性(59)。日雇いの建設作業員として働いていましたが、収入が激減して家賃を払えなくなり退居を余儀なくされました。
(男性)「物乞いするのも無理で、ゴミをあさるのも絶対無理で。今まで生きてきたので、今回だけは助けてください。お願いします」
(坂本代表)「わかりました。もう安心してください」
相談者にすぐ住居を用意 背景にあるのは“過去の苦い経験”
面談を終えるとすぐさま大阪市内のワンルームマンションへ。急な入居に対応するため家具や家電のほかインスタント食品などが用意された部屋です。支援物資は、寄付と坂本さん自身の不動産業での収益によって賄われています。
活動に賛同するマンションのオーナー15人ほどが物件の管理を坂本さんに任せていて、相談に来た人が空き部屋へすぐに入居できる仕組みです。入居までの早さにこだわるのは、過去の苦い経験があったから。
(生活支援機構ALL 坂本慎治代表)「夜7時に相談に来た人がいて、そのとき僕、面談中だったんですよ。『ちょっと今混んでいるから、きょうもう遅いからあした来てくれるか?』と言ったら、次の日に来なくて。数日後に警察が来て『この人、来ていましたよね?』となって、『来ていたけど、あした来てと言って来なかったですわ』と言ったら、『神戸港に浮いていました』みたいな。あのとき、うわ、しくじったと思って。あしたまた来てねと言うだけだったら、あした来ないかもしれないし、死んでいるかもしれないんですよね」
生活保護費が支給...家賃を払わず「夜逃げ」される
厳しい現実を何度も突きつけられます。1か月前に支援したばかりの男性が夜逃げをしたのです。男性は窃盗罪で執行猶予付きの有罪判決を受け、拘置所から坂本さんを頼ってやってきたといいます。
(坂本慎治代表)「2月17日にお金を全額おろしていますね、11万7000円。生活保護費ですね。で、そのまま飛んだんでしょうね。こういうだらしないやつに限って(部屋の床に)小銭が絶対に落ちているっていう」
生活保護費が支給された途端、家賃を支払わずに部屋から姿を消す人は後を絶ちません。
(坂本慎治代表)「最後こんな感じで夜逃げされてね。やってられへんですね」
それでも支援をやめる訳にはいきません。
雇い止めにあって住む場所を無くした20歳「もう最後やなと思って」
坂本さんに助けを求めた20歳の田中聖輝さん。建設現場で働いていましたが、雇い止めにあって寮を追われ、2日間野宿をしていました。
(坂本代表)「こんばんは、坂本です。寒いな。ずっと待っていてくれたん?大変やね。まあ1回、事務所で話聞こうか」
(坂本代表)「よく電話してくれたね、うちに」
(田中さん)「いやもう『最後やな』と思って。これが無理ならネットカフェ入って、24時間たったら1回精算しないといけないと書いてあったんですけど、24時間ゆっくりしてそれで警察呼ばれた方がマシかなって」
(坂本代表)「それで捕まった方がマシやなって?」
小学生の時に両親が離婚して父親に引き取られたという田中さん。その父親は、2022年に脳梗塞で倒れ、入院した際に、家賃を滞納していたことが発覚しました。退去を命じられ、帰る場所はなくなり、父親は今も療養中。会社の寮を追われた後、行く当てもなく、辿り着いたのは幼いころによく遊んだ公園でした。
(坂本代表)「なんで追い出されたん?」
(田中さん)「父親の病院にいろいろ呼ばれて、退院のこととか、もしかしたら施設に入るかもしれないとかで話し合いが必要って言われて。あと父親から『ふりかけ持ってこい』とか『欲しいもの持って来い』とか『面会しに来い』とかで行っていたら、それが続いて週2回とか休むようになって、もう辞めてくれるかみたいな感じになって」
(坂本代表)「それ、仕事やから行かれへんとか言えなかった?親父優先?」
(田中さん)「父親優先にしちゃいましたね。あっちは僕しか頼れる人がいないのかなと思うと」
「25歳くらいまでにはちゃんとした社会人に」前に進む青年
2日後、坂本さんは田中さんを連れて区役所へ。
(区役所職員)「生活保護を受けることになった人は、常に計画的な生活に努め、支出の節約を図り、生活の維持・向上に努めてください。平たく言ったら真面目に生活してくださいということですね。税金が原資になっているので大事に使って自立して頑張ってください」
単身者に支給される生活保護費は月に10万円ほど。田中さんは一歩ずつ前に進もうと決意を固めていました。
(田中聖輝さん)「まずバイトを頑張って仕事に慣れていって、遠い話ですけど25歳くらいまでには、ちゃんとした社会人になっておきたいですね」
居住支援を受けたのち、居酒屋でアルバイトを始めた田中さん。生活保護を打ち切り、いまは自立した生活を送ることができています。
“住まいを得ることで立ち直る人が必ずいる”
(坂本慎治代表)「僕のこと“貧困ビジネス”って言う人もいますけど、それはいいんです。僕が許せないのは、生活保護を受ける人たちを怠け者みたいな、そう言っていること。『同じ立場になった時に同じこと言えるの?』『自分が言われたとしたらどう思うの?』って、投げかけたいですね」
居住支援をしても10人に1人は逃げ出し、また“元の生活”に戻ってしまいます。それでも支援をやめないのは、住まいを得ることで立ち直る人が必ずいると知っているから。絶望し途方に暮れる人たちが少しでも前を向けるように。坂本さんが活動を続ける理由です。
※坂本慎治さんが活動の中で直面したさらなる困難や、坂本さんの支援を受けた田中聖輝さんのその後に迫った映画「家さえあれば ~貧困と居住支援~」が以下のスケジュールで上映中です。
「家さえあれば ~貧困と居住支援~」 TBSドキュメンタリー映画祭2024作品
監督:海老桂介
ナレーター:麒麟・田村裕
【上映スケジュール】
・シネ・リーブル梅田(梅田スカイビル 3・4階)
3月22日 午後2時20分~
3月30日 午後2時20分~
4月 4日 午後2時20分~
・アップリンク京都(新風館 地下1階)
3月24日 午後2時30分~
3月25日 午後4時10分~
3月30日 午後2時30分~
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