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コレラ流行が続くジンバブエ──「宗教」と「水」を乗り越えることがカギとなる

国境なき医師団 / 2024年3月19日 17時23分

コレラ対策には地元住民の理解と協力が不可欠だ Ⓒ MSF

アフリカ大陸の南にあるジンバブエ。南東部マニカランド州にブヘラという地域がある。国境なき医師団(MSF)の車が、そのブヘラのデコボコ道を進んでいく。真昼の太陽の下、うだるような暑さだ。南半球にあるジンバブエの季節の流れは、日本とは異なる。

ブヘラ一帯では、2023年10月からコレラが猛威を振るっている。MSFのチームが目指しているのは、現地の診療所。患者を治療し、感染症対策に追われる地元医療スタッフたちをサポートするためだ。

道で倒れたコレラ患者

突然、MSFの車が止まる。ある男性が道端に倒れていて、人だかりができている。男性は息絶えているようにすら見える。MSFの医療スタッフが男性のもとに向かった。彼はコレラの症状があるようだ。確認したところ、まだ息はある。5キロ先の診療所に向かう途中、脱水症状で倒れて意識を失っていたのだ。MSFのチームは、その場で点滴や水分補給を施した上で、彼を診療所まで運んだ。

「その場がどのようなところだろうと、治療の必要な人がいたら、すぐに治療にとりかかります。命を救うことが私たちの責務ですから」

そう話すのは、MSFの看護師ロゼウィタ・マルンザだ。

ジンバブエでは、2023年2月に最初の感染者が確認されて以来、国内全体で2万4885人が感染し、501人が死亡している。ブヘラ地域だけでも、コレラに感染した人びとの数は2223人であり、そのうち44人が死亡しているのである。

先ほどのロゼウィタが続けてこう話す。

「さまざまな重症患者を見てきました。道端に倒れていた人、二輪馬車や手押し車で病院まで担ぎ込まれた人、家を訪ねていって重症だと判明した人。彼らが回復した時には、ほっとした気分になれます」

MSFのスタッフたちは、10月初旬から、ブヘラでコレラ対策の活動に入っている。現地37カ所の医療施設において、患者の治療はもちろん、医療スタッフの指導にもあたってきた。また、現地の医療施設に21カ所のコレラ治療センターを設けることになり、その支援にも従事。ブヘラ地域内の6カ所に経口補水ポイントを設置する作業にも関わっている。感染予防を図るため、治療を受けに来院するよう、地元の人びとに広く訴えかけてきた。

コレラ対策と宗教

ブヘラでは、上下水道が整備されていない。多くの住民が、川の水を飲んだり、野外トイレを使う。こうした慣習も、コレラが流行しやすい背景となっている。さらに、人口の4分の3(約20万人)は、現代医学を拒否する宗教コミュニティに属している。この点が解決をさらに難しくしている。

コミュニティに属する人びとの大半は、医療施設で治療を受けることにも、公衆衛生に協力し参加することにも、きわめて消極的なのだ。その結果、失わずに済んだはずの命が失われている。コレラで亡くなった人びとの遺体は、保健当局で示されているガイダンスに従わず、密かに埋葬されているという。

一方、MSFは、ジンバブエ保健・育児省やパートナー団体とともに、この地域の保健員362人に向けた研修活動も展開してきた。例えば、症例サーベイランス、積極的症例探索、リスクコミュニケーション、地域連携活動などである。

MSFのチームとともに働く地元の保健員の中には、上述した宗教コミュニティに属する人たちもいる。彼らを通して、ゆっくりと着実に、健康や医療にまつわる情報がコミュニティのメンバーたちに届くようになった。人びとに衛生習慣についての理解を深めてもらい、必要に応じて治療を受けることを促していったのである。

地元の保健員たちは、MSFのスタッフと連携して、市場や教会など、人びとが多く集まる場所において、健康にまつわる講座を開いている。コレラで亡くなった人びとの葬儀に参加して、感染防止対策がどれほど講じられているかを確認する作業にもあたっている。

地元の保健員で、上述した宗教コミュニティに属しているテクラ・マンディズボさんは、次のように語る。

「地元の人たちと接しながら、コレラに対する偏見を解いていこうと決めました。コミュニティのメンバーも含めて、村の家々を一軒一軒訪ねて回りました。コレラの症状に気づいたら、経口補水液を飲みながら、近くの診療所に行くよう助言していきました。今では、家族がコレラに感染したんじゃないかと、私のところに相談しに来てくれる人がたくさんいます」

毎日、人びとが死んでいくのを見て、自分のこれまでの態度を変えなければ、家族を救えないと思ったんです。

コレラ対策に不可欠な「水」の問題

ブヘラのベレニャズビ村で村長を務めるジェスロ・ボンダイさんは、そうした保健員たちの取り組みを評価している一人だ。

「彼らの努力は、うちの地元でも理解されるようになりました。私たち村民としても、自分自身で我が身をコレラから守っていかないといけない。その方法を学ぶのは大切なことです」

ブヘラ地域には、270人ほどの地元指導者がいる。ボンダイさんはその一人であり、コレラの流行対策にも積極的に協力している。ボンダイさんの村では、清潔な飲料水が不足しているため、多くの村民が川の水を飲んでいるそうだ。この点について、ボンダイさんは次のように語った。

「掘削井戸が不足しているので、ほとんどの人が川の水を飲んでいます。私はコレラを広めてはならないと説き、少ないながらも機能している掘削井戸から水を汲むこと、あるいは、水を沸騰させて使うように言っています。コレラが流行すれば手に負えなくなりますからね」

地域住民、MSF、ジンバブエ保健当局の取り組みを通じて、コレラ関連の死亡者数は減少に転じてきた。コレラ対策は功を奏しているように見える。現在、MSFは、ブヘラ地域の活動を縮小し、さらに危機的状況にある地域(首都ハラレも含まれる)での活動に力を入れ始めている。コレラ患者を治療するだけでなく、給排水衛生活動にもフォーカスしているところだ。

コレラ流行に対応する上で重要となるのは、もちろん、患者の治療とコレラの予防対策の強化である。しかし、それだけではない。安全な飲料水を確保する対策もとらなければ、ブヘラ地域でコレラ問題が再び起こる可能性があるだろうと、MSFは現地に呼びかけている。

ジンバブエでのMSFの活動

MSFは、2000年以来、ジンバブエ保健・育児省と緊密な協力関係を築き、コレラ流行などの公衆衛生危機に対応してきた。

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