大河原克行のNewsInsight 第303回 「テレビ撤退」という誤解、シャープのテレビ事業戦略を改めて追う
マイナビニュース / 2024年6月30日 16時47分
シャープが、2004年に稼働させた亀山工場で生産されたテレビは、「世界の亀山モデル」として、大きな人気を博したが、その時代は、液晶パネルが進化の途中にあり、液晶パネルの進化が、テレビの進化に直結していた。つまり、液晶パネルを自社生産することが差異化につながっていたのだ。
当時は、最大サイズが32型に留まり、さらなる大画面化が求められていたほか、視野角や応答速度といった点でも改良の余地が大きく、新たな技術をいち早く採用した自社生産の液晶パネルを採用することが、競争優位性を発揮することにつながっていた。
その技術進化で先行したからこそ、「亀山モデル」も高い評価を得て、指名購入が相次ぎ、シャープのテレビがトップシェアを獲得することにつながった。
当時、シャープの社長を務めていた町田勝彦氏は、「ブラウン管テレビの時代には、自社でブラウン管を持たなかったため、シャーシの良さを訴えても、ワンランク下の価格設定となり、ブランド価値があがらなかった。だが、液晶パネルというキーデバイスを自ら持つことで、安売りのブランドから脱却することができた」と語っていた。
このように、いまから約20年前は、液晶パネルを自ら開発、生産することが重要な要素になっていたわけだ。
だが、液晶パネルの技術が進化し、4Kや8Kの高画質も進展。中国勢を中心に参入企業が拡大し、コモディティ化が進む一方、液晶パネルの供給力が世界的に過剰となり、価格競争が激化。多くの液晶パネルメーカーが、収益性を悪化させるという状況に陥った。
2024年6月まで社長兼CEOを務めた呉柏勲(ロバート・ウー)副会長は、「シャープにとって、ディスプレイが大切な事業であることは理解している」と前置きしながら、「ディスプレイ事業は、新たなテクノロジーに移行したり、市場の対象が変化したりするときには、巨額の投資を続けなければ、競争力を維持できない事業である。そして、テクノロジーの進化やコスト競争が激しいという市場でもある。これは、シャープにとっては、長年抱えている構造的課題となっていた。毎年のように巨額な投資を必要とするディスプレイ事業から撤退することで、シャープの利益を最大化することを目指す」と、中期経営方針の基本姿勢を示す。
シャープでは、液晶に関するコアテクノロジーを保有しながら、開発は継続的に進めるほか、インドの有力企業への技術支援などを行っていくという。
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