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JAMES VINCENT McMORROW 『We Move』Interview

NeoL / 2017年5月12日 15時42分

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JAMES VINCENT McMORROW 『We Move』Interview



ドレイクのアルバム『ヴューズ』への参加や、世界的なEDMアーティスト、カイゴとのコラボレーションを機に注目を集めるアイルランド出身のシンガー・ソングライター、ジェイムス・ヴィンセント・マクモロー。昨年リリースされた最新アルバム『ウィ・ムーヴ』には、フランク・デュークス(ケンドリック・ラマー、カニエ・ウェストetc)、ナインティーン 85 ことアントニー・ポール・ジェフリーズ( R ・ケリー、ニッキ・ミナージュetc)、トゥー・インチ・パンチことベン・アッシュ(サム・スミス、ジェシー・ウェアetc)といった気鋭のプロデューサー/トラック・メイカーが参加。リヴァーブ等の音響処理やエレクトロニクスを取り入れた前作『ポスト・トロピカル』(2014年)のアプローチを推し進め、昨今話題のR&Bやヒップホップのプロダクションに通じるコンテンポラリーなサウンドを披露している。ボン・イヴェールやジェイムス・ブレイクも引き合いに出される評価の一方、7年前のデビュー時はアコースティック・ギターを爪弾く端正なフォーク・ソングを聴かせていたマクモロー。その作風の変遷と、現在のマクモローを形作るミュージシャンとしての実像に迫ってみたい。


―いわゆる「シンガー・ソングライター」然としていた1st『アーリー・イン・ザ・モーニング』(2010年)の当時から、ゆくゆくは今みたいなエレクトロニックなアプローチを取り入れた音楽をやりたいと考えていたんですか。


ジェイムス「まあ、音楽って経験を積めば積むほどわかってくるというかね。『アーリー・イン~』のときは、自分の視野もまだ狭かったし、ただアルバムを作ることだけが目標だった。お金もなくて、手段も限られていたし、だから当時の自分にできる限りの状況で、自宅で1人で作品を作ったわけだよね。そうしたら、そのアルバムがすごくうまくいって、活動も軌道に乗り出したことで、自分の視野も一気に開けたし、それによって自分の意識も変わっていった。もっと色んな分野や新しいアイデアを開拓していくことが、ミュージシャンを生業としていく上で自分が果たしていくべき使命だと思うようになったんだ。サウンド的にも、作品を重ねることで自分が思い描いていた理想に近づいているように思う。だから、もしも今の自分の能力と視野が備わって、今みたいに音楽作りに協力してくれる仲間や環境に恵まれていたら、『アーリー・イン~』ももっと違う作品になっていたんじゃないかな。ただ、当時はそれができない状況だったから、その中で自分のできる限りのことをしたわけだよね」


―「ギターやピアノを使わずに、いかにして“シンガー・ソングライター・ミュージック”を作ることができるのか」というのが、前々からのテーマとしてあったそうですね。


ジェイムス「昔から『自分はシンガー・ソングライターなので、こういうスタイルでやらせてもらってます』みたいな感じが苦手で。普通にシンガー・ソングライターというと、昔からギターかピアノとセットみたいな感じになってるけど、それに縛られる必要はないんじゃないかって。自分の好きな楽器を使って、自分の好きなようにやったらいい。もちろん、シンガー・ソングライターとしての自覚はあるし、今回の作品にしたって今まで以上にシンガー・ソングライター色を強調したいと思っていた。けど、同時に今までで一番、前衛的な作品になっているとも思っている。それはフタを開けてみたらそうなってたってことではなくて、意図してそういう作品にしてあるんだ。ギターとピアノを全開でやったっていいけど、それじゃ簡単すぎてつまらないし、挑戦のしがいがないからね」


―では、そこであなたの中の“理想のシンガー・ソングライター像”となると、どんなアーティストが挙げられますか。


ジェイムス「そうだな……昔から一番好きなシンガー・ソングライターはニール・ヤングなんだよね。自分にとってニール・ヤングは尊敬するギタリストであり、ピアニストでもあって、実際に60年代や70年代の作品はピアノとギターが中心だけど、一方で80年代には全部ヴォコーダーで録音したアルバムとか、かなり風変わりな作品を作ってて。今振り返るといかにも80年代って感じのサウンドなんだけど、ただ、それによって『自分はギターにもピアノにも縛られていない』っていう姿勢を打ち出したわけで、当時にしてみれば前衛的な発想だよね。あとは、プリンスもルールなんか一切お構いなしで、むしろ既成の概念を無視して拒絶することに喜びを感じていたアーティスト。ピアノのバラードの次に18分のファンクの曲を繋げたと思ったら、ベタなロックンロールの曲をやったりして、何にも束縛されてないんだよ。それって、まさに理想的だし、すべてのミュージシャンが目指すべきゴールだと思うよ。キャリアの進め方として」


―前作の『ポスト・トロピカル』以降、ボン・イヴェールやジェイムス・ブレイクと比較されることが増えましたが、同世代のアーティストで刺激を受けるひとはいますか。


ジェイムス「ボン・イヴェールのジャスティンは、まさに自分と同類っていう感じがするよ。『こういう音楽をやるのに、なんでバンドを組んでやらなきゃならない必然性があるんだ?』っていうね。僕達みたいな人間はたくさんいると思うよ、それこそジェイムス・ブレイクにしろフランク・オーシャンにしろね。実際、自分が『ポスト・トロピカル』を出した後に、あのアルバムと似たような姿勢でやってるアーティストが急にわんさか出てきたなっていう印象があって、自分としてはすごく光栄で嬉しかったんだ。自分やジェイムス・ブレイクやボン・イヴェールのような姿勢で音楽を作ってる人間を支持してくれてるってことが証明されたような気がしたから。自分達みたいな伝統的なシンガー・ソングライターのスタイルとは違う形の作品を出して、それが広く受け入れられたことで、みんなが新しい音楽を待ち望んでいたんだってことを実感できたような気がしてね。今言った人達に代表される世代って、何だって自由にやっていいんだっていう姿勢で、それこそアコースティック・ギターも弾けばシンセサイザーも使うし、1つの型に捕われていないんだよ。だから、自分達が今こうして同じ時代で、近しい姿勢でやってるっていうのは、ただの偶然じゃないんだ」






―ちなみに、ダーティー・プロジェクターズの新作(『ダーティー・プロジェクターズ』)は聴きました? 


ジェイムス「うん、素晴らしかった」


―あのアルバムなんかもまさに、あなたが今やろうとしていることと姿勢の部分で共感できる一枚なんじゃないでしょうか。


ジェイムス「デイヴ・ロングストレスからはものすごく影響を受けている。ちょうど『アーリー・イン~』を作ろうとしている頃にダーティー・プロジェクターズの『ビッテ・オルカ』を聴いて、あのハーモニーの美しさやアイデアにものすごくインスパイアされてね。デイヴも毎回違う作品を作ってるし、そのときどきの自分の感性に従って作品を作ってるよね。それとデイヴの人となりにもすごく共感できるし、多くのミュージシャンに影響を与えている人物だと思う。新作は胸が締めつけられるような痛々しい作品で、しかもそれまでデイヴが築き上げて来たハーモニーなり、ギターなり、華やかなバンド・サウンドっていうものを一切覆すような作品だよね。本当に悲しみに満ちた作品なんだけど、素晴らしくて、プロデューサーとしても本当に腕のある人なんだなってつくづく思い知らされたよ」


―そのダーティー・プロジェクターズの新作にも顕著でしたが、先ほど名前の挙がったフランク・オーシャンや、あるいはチャンス・ザ・ラッパーやカニエ・ウェストに代表されるR&B/ヒップホップの作品に通じるプロダクションやフィーリングというのが、今回のあなたのアルバムにもあると思うんです。


ジェイムス「そうだね。ただ、カニエは別格だよ。カニエが、今挙げてくれた人達の音楽の流れの土台を作ったと言っても過言じゃないし。『808's&ハートブレイク』(2008年)なんて、自分と同世代やその下のシンガー・ソングライターはほぼみんな影響を受けてるんじゃないかな。自分個人の経験で言えば、もともとヒップホップが好きで聴いてたんだけど、あのサウンドを使ってシンガー・ソングライターのスタイルをやるっていうのが想像がつかなくて……当時の自分は、ピアノとギターっていう固定観念に縛られててね。あのアルバムを初めて聴いたときに、すごく赤裸々で、内省的なアルバムだと思ったんだ。自分の心の内をさらけ出すような感じだから、自然に感情移入できて、かつ、ヒップホップ的なサウンドを使ってここまでシンガー・ソングライター的なアプローチができるんだっていうのが、ものすごく新鮮で衝撃だったんだ」


―『808's&ハートブレイク』を聴いて、今の自分の音楽の方向性が見えた?


ジェイムス「カニエは今どきのポップ・ミュージックの生みの親的な存在で、ドレイクとかチャンス・ザ・ラッパーも、フランク・オーシャンもボン・イヴェールも、ジェイムス・ブレイクも自分も、みんなカニエのあの作品があったから今のスタイルに行き着いたようなもので(笑)。音楽の在り方をすべて塗り替えたアルバムっていっても過言じゃないよ。最近は、チャンス・ザ・ラッパーみたいにヒップホップ側からシンガー・ソングライター的な美しい曲が生まれていたりする。要するに境界線がなくなってるわけで、それはすごくいいことだと思う。自分も1つの枠に留まってはいたくないからね。チャンス・ザ・ラッパーみたい人も、きっとヒップホップという1つの枠の中には収まっていたくないだろうし、ラッパーだからって四六時中ラップしてなきゃとは思ってはないはずで。歌いたかったら歌うし、ラップしたかったらそうするし、何をやったっていいんだ」


―ただ、今名前の挙がったアーティストの多くはオート・チューンなどを使ってヴォーカルを加工していますが、あなたはほとんどしていませんよね。そこにはこだわりがある?


ジェイムス「ヴォーカルに手を加えない理由は、自分がヴォーカリストとして成長したいからなんだ。実際、『アーリー・イン~』のときに比べてはるかに歌に表現力がついてるしね。歌えるようになるにつれて、表現したいものも増えて、もっともっと歌による表現を追求してみたいっていう気持ちになった。言うならば、人力によるオート・チューンの実践を試みている最中という(笑)。『アーリー・イン~』のときはヴォーカルにリヴァーブをかけたり、自分の声が中心に来るのを避けていた部分があったけど、作品を重ねるにつれて自分の曲に自信が持てるようになったし、もっと明確に主張したいっていう気持ちになった。それがヴォーカルにエフェクトを使わない理由なんだ。単に、高い音域のヴォーカルを出すためにエフェクトを使うっていうのは好きじゃない。音程を合わせるためにヴォーカルを加工するなら、何でわざわざ歌う必要があるんだってことになるし。カニエやボン・イヴェールのようなエフェクトの使い方は、まさにクリエイティヴで見事というほかないけどね」


―ちなみに、今回のアルバムの制作に参加したフランク・デュークス、アントニー・ポール・ジェフリーズ、ベン・アッシュの3人のプロデューサー/トラック・メイカーの中で、一番長く時間を過ごしたのは誰になりますか。


ジェイムス「ナインティーン85のポールだね。ポールこそ、今回のアルバムの影の仕掛人なんだ。ポールが背中を押してくれたから、今回のアルバムを作ることができた。ずっと自分の書いた曲をポールの元に送って意見を聞いてたんだけど、もともと自分で歌うことを想定していなくて。そうしたらある日、ポールから『これは君の作品に入れるべきなんじゃないか』ってメールが来てね。しかも、そのために自分が協力するとまで言ってくれたんだ。前からポールと一緒に作品を作れたら最高だろうなとは思っていたけど、自分からは口に出すことをしなかった。友人関係を壊したくないっていうのもあったし、ただ、とにかく忙しい人なんで。最近ではドレイクみたいな大物の作品も手掛けてるくらいだしね。だから今回も、いつものように自分ひとりで作品を作るつもりでいたんだ。ただ、ポールが『この曲は君が形にすべきだ。何かやりたいことがあるなら、それを形にするための手助けをしたい』って言ってくれてね。実際、今回のアルバムでポールの果たしてくれた役割は凄く大きかったよ」


―今回の制作に入る前に、dvsn(※ドレイク主宰のレーベル〈OVO Sound〉に所属するR&Bデュオ。ポールはその片割れ)のアルバム『SEPT. 5TH』でポールと共演したことも大きかったんでしょうか。


ジェイムス「そうだと思う。あの作品以来、僕とトゥー・インチ・パンチのベンとでちょくちょく一緒に作業するようになって、そこにdvsnやナインティーン85が絡んできたり、自分が昔録ったデモの声がドレイクの作品(『ヴューズ』)に採用されたりして……そうやって自然な流れで進んでいった感じで、決して何か意図的にどうこうっていうわけじゃないんだ。だから、作業しててもすごく楽だったし、絶対にこうであらねばならないっていうのがなかったからね。おそらく彼らと一緒に共演するために喜んで大金を積む人達がいるんだろうけど、自分はそうする気にはなれないし、自分のキャリアはあくまでも自分自身の作品でありパフォーマンスを中心に築いていくものだと思ってるから。そもそも、自分の声が『ヴューズ』に採用されること自体、自分ではまったく予想してなかったしね。dvsnのあのアルバムにしたって、もともと自分がエリオット・スミスの曲をカバーしてるのをたまたまポールが聴いて、その曲を元に一緒に作品を作ることになったんだ。自分は彼らのことが本当に人間的に好きなんで、ただ一緒につるんで音楽を作るっていうだけでも嬉しいんだ」


―ところで、先日、ダーティー・プロジェクターズのデイヴとフリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドがインスタグラム上で交わした議論が話題になりましたよね。内容をざっくりと言えば――いま、もっとも実験的で刺激的な音楽が生まれているのは、いわゆる「インディ・ロック」ではなく、先ほど名前を挙げたようなR&B/ヒップホップ・アーティストに代表されるメインストリームのポップ・ミュージックにおいてである、と。


ジェイムス「うん、そのインスタの内容は知ってるよ。ただ、両方のバンドがデビューした時の状況を自分は記憶してるんで……ちょうどフリート・フォクシーズが出て、ダーティー・プロジェクターズが出て、グリスリー・ベアの『ヴェッカーティメスト』があって、当時のインディー・ミュージックってすごく、何だろう……言ってみれば、複雑なものだったんだよね。変調を多く使っていて、複雑であるってことに、ある意味重要な意義があったんだ。ただ、彼らの音楽の複雑さや緻密さや、それを実現するための努力とは別にして、今の世の中はもっとシンプルで簡潔な表現を求める方向に行ってるんじゃないかな。それは音楽がつまらなくなったというのとは別の話で、前よりも複雑であることが重要ではなくなったってことなんだ。実際、ポップ・ミュージックでは、ジャンルの境界がどんどんなくなってきているよね。ファーザー・ ジョン・ミスティがビヨンセに曲を提供してたり、テーム・インパラのケヴィン・パーカーがレディー・ガガのアルバムに参加してたり、トバイアス・ジェッソJr.がアデルに曲を提供してたり……ね。その結果、リスナーのほうも、よりシンプルな表現を求めるようになってるんじゃないかな。実際、フリート・フォクシーズの新曲を聴いてみても、昔に比べて複雑ではなくなってるし、ダーティー・プロジェクターズのアルバムに至ってはポップですらあるからね。彼らの音楽にしたって複雑さを排除する方向に向かっているわけで、今はシンプルでわかりやすいってことが1つの鍵になっている時代なんだと思う」


interview & text Junnosuke Amai
edit Ryoko Kuwahara





JAMES VINCENT McMORROW
『We Move』
発売中
(P-VINE)



JAMES VINCENT McMORROW
2010 年のデビューアルバム『Early In The Morning』がプラチナ・セールスを記録、続く 2014 年の 2nd『Post Tropical』が日本の音楽ファンの間でも話題となったアイルランド出身のシンガー・ソングライター。Kygoの『Cloud Nine』にフィーチャーされたことでも話題となった気代のヴォーカリストでもある。2016年12月3rd『We Move』をリリース。

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http://www.neol.jp/culture/

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