オバマの「対ロシア譲歩演説」の意外な評判とは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2013年9月12日 13時58分
それにしても、全く異例な内容でした。というより、このタイミングで平気で演説をするというのが、そもそも「並の大統領」ではありません。9月10日(火)の晩、オバマ大統領がアメリカ国民に呼びかけたテレビ演説は、前代未聞と言っていいでしょう。簡単にその内容を整理してみましょう。
(1) シリアの化学兵器問題は、ロシアが提案している「化学兵器を引き渡して国際管理を行う」という案に乗って、外交的な解決を目指す。
(2) ただし、この間にシリアが軟化したのは、自分が「空爆を辞さず」という強い姿勢で臨んだことの結果であり、アメリカとしては依然として空爆のオプションは捨てない。
(3) 事態が一変した以上、自分が議会に求めた「議決」については、急がずに推移を見守ってもらいたい。
要するにこういうことですが、簡単に言えば、「人権問題やスノーデン事件で完全に敵対しているプーチン」の「平和的解決案」に対して、事もあろうに「平気で乗っかろうと」している一方で、「事態が変わればいつでもミサイルを発射する」姿勢に変わりはなく、「議会での攻撃案否決」という事態からは逃げまくっているのです。
これでは、一旦は安保理を無力化したロシアに屈服したということで、国内の軍事外交タカ派からは反発を喰らい、その一方でシリアへの攻撃を諦めないということでは反戦リベラルや孤立主義者に怒られる、それ以前の話として「議会では支持されていない」ということが改めて浮かび上がるわけです。オバマとしては「三方面から敵に囲まれた窮地」に他ならず、この演説を契機に支持率もグッと下がるだろう・・・常識的にはそうした見方になりそうです。
演説の前には、オバマの周囲、あるいは民主党のオバマ支持者からは「このタイミングでの演説は見送るべきだった」とか「最後の最後までスピーチに赤を入れ続けたんだろう」などという言われ方をしていました。
この演説の後の簡易世論調査(CNN)では、依然として「攻撃反対」は50%以上という数字が出ています。また、日々行われているオバマの支持率調査では、先週の後半から支持率の低下が目立ち、現在では支持が40%台の前半、不支持が40%台の後半という数字で、各調査は推移しています。
では、今回の演説は完全に失敗だったのでしょうか? 必ずしもそうでもないという見方があります。
例えば、10日の演説の直後にCNNは、人気キャスターのアンダーソン・クーパーを司会役にして、同局の戦争報道のベテランであるクリスチャン・アマンプール氏であるとか、CIAのOBあるいはプリンストン大学の「ウィルソン外交大学院」のアン=マリー・スローター教授など「中道実務派」的な顔ぶれによるパネル・ディスカッションを行っています。
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