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大陸と香港、深い隔たり - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り

ニューズウィーク日本版 / 2014年5月9日 5時10分

 こういった意識の違いもあるだろう。だが、件の事件を写真で見た限り、子供の両親は周囲の目に気を配っていた。実際に現場で撮られたビデオでは母親は「トイレに行ったけれど、長蛇の列で仕方なかった」と繰り返しているそうだし、写真ではティッシュに見えたそれは実は紙おむつで、彼女は言い訳しながらもそのおむつを丸めてゴミ箱に捨てようとしていたという。

 確かに香港の青年側も大人げがなかった。積もり積もった、大陸からの観光客の「蛮行」の連続に怒りをたぎらせている香港人は多い。それが習慣化して大陸人と見るとわざとトラブルを起こす香港人も増えているという。彼らもそんな一人で、実際にアンチ中国旅行者の活動に関わっていることが後でわかっている。だが、今や、中国vs.香港は感情的なしこりになってしまっており、お互いの心に余裕がなくなっている。

 しかし、今回の大騒ぎにため息をついている人たちも少なくない。「我々が香港に行かなければ、香港経済はすぐに縮小してしまうだろう」という鼻息荒い発言に、「貧しい大陸や災害に同情して我々が民間募金で援助してきたのは何だったのか」という香港の声。一方で、「日頃から北京や上海でも田舎の観光客の素養の無さを指摘しているくせに、なぜ香港人が叱責すると怒りを爆発させるのだ?」という大陸人同士の声。「もともと大陸には批判的なぼくですら、フェイスブック上で大陸人を罵る香港人には反吐が出る。彼らの態度はぼくのように日頃から香港に好感を持っている人間ですら不快にさせてしまう」......。

 わたし個人は、香港人側の反応も直情的過ぎると感じている。彼らは昔から弱者を――例えば他人の広東語の訛りを真似て大声で笑うと言ったような――あざ笑うという悪い習慣があった。だが、大陸の「オレたちがいなければ香港経済は潰れていた」という態度も、それを言う本人がどれだけの貢献をしてきたというのか。そんな物言いをすれば「虎の威を借る非文明的な狐」と言われても仕方がないのである。

 確かに香港経済の多くの部分が中国の経済発展に大きく依存していることは間違いがないが、一方で大陸からは毎年数万人の大学及び大学院生が香港にやってきて、香港で有利な就職のチャンスを狙っている。さらに出生地主義を採る香港で子供を産んで、香港人としての権利と自由を手に入れたいと求める親たちが引きも切らず、香港人妊婦のベッド確保に大きく影響し、昨年やっと中国人妊婦の病院での受け入れ規制が始まったばかりだ。つまり、中国に経済力はあっても法的に整備された香港で生活するための権利を手に入れたいというのも大陸人の本音なのだから。

 香港と大陸、その双方に明らかに欠落しているものがある一方で、お互いに頼りにしている部分もある。地続きだけに切っても切れない関係にあるこの二つの地域の、感情的な小競り合いはまだ解決の緒は見えず、ちょっとした何かが起これば再び悪化する傾向にある。このままではお互いにとって良い方向に向かわないと思えるのだが、どちらかにこの状況を打開する策はあるのか。お互いにあさっての方向を向いて怒鳴っているような、なんともやりきれないぶつかり合いが続いている。




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