【南シナ海】スカボロー礁での中国の出方が焦点――加茂具樹・慶應義塾大学教授に聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月22日 11時34分
例えば、日本がフィリピンにコーストガード支援を行うことは台湾の利益と必ずしも一致しません。台湾とフィリピンとの間には、領有権をめぐる対立や漁場や漁民の保護をめぐる対立など、幾つかの複雑な問題が存在しています。日本の支援によってフィリピンの沿岸警備能力が向上することは、台湾にとっては脅威になり得ます。台湾とフィリピンの間の問題は、台湾とフィリピンとの間で調整すべきことです。しかし日本は、南シナ海問題に関係するアクター間の利害関係は複雑であり、日本のこの地域への関与の在り方については、複雑な地域のバランスにどのような影響を与える可能性があるのかをよく考えながら取り組むべきだ、ということです。
集団指導体制からトップの指導力拡大か
――中国の指導部で経済問題をめぐる対立が先鋭しているという見方があります。
加茂氏 経済改革をめぐる大きな意見の相違があるようです。5月に、人民日報紙上で李克強首相が率いる国務院の経済政策を批判する記事が掲載されました。それが習主席と李首相の間で経済政策をめぐる意見の相違があることを示唆しているという見方が提起されています。それが真実かどうかは分かりませんが、中国国内では経済の見通しおよび経済政策の方針をめぐって、議論が展開しています。
【参考記事】中国政治の暑い夏と対日外交
――今年の中央委員会総会では何が見えてくるでしょうか。
加茂氏 17年に5年に1回開催される共産党の全国代表大会が開催されることになっています。この大会では17年から5年間の中国をかじ取りする人事が決まります。これまでの慣例に従えば、そこでは5年だけでなく、さらにその先の10年から15年をかじ取りする指導者、すなわち習総書記の後任を選ぶことになります。ですから、今年の秋に開催される中央委員会総会の辺りから、後任人事をめぐる議論が活発に行われます。「権力の継承」の問題ですから、「誰か」だけでなく、どのように選ばれるのかも重要なポイントです。中国をめぐっては、南シナ海の問題をはじめとする中国外交だけでなく、その国内政治についても多くの関心を集めています。
7月26日に開催された中央政治局会議で、今年10月の中央委総会の議題が明らかになりました。それによれば「新しい情勢下の党内政治生活に関する若干の準則」が議論されることになっています。まだ議題となることだけしか発表されていないので、この準則の具体的中身についてはまだよく分かりません。中央委員会や政治局、政治局常務委員会といった、中国政治の中枢を担う機関の構成員の党内の活動の在り方について話し合うことになります。
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