アジア首脳が次々ドイツを訪問、一体どちらの思惑か
ニューズウィーク日本版 / 2017年6月9日 10時0分
<米英の助けなしでもドイツがやっていけることを、メルケルは誇示しようとしている>
ドイツのメルケル首相は、軸足をアメリカとイギリスからアジアに移そうとしているのか。それともアジアのほうが、メルケルのドイツに軸足を移しているのか。
先週、6日間で欧州4カ国を訪問という強行軍で外遊を行ったインドのモディ首相。最初に訪れたドイツでメルケルと非公式の会談を行い、「よい対話」ができたと語った。
メルケルとの非公式の会食に続いて両国の実業界を代表する経営者らとの会合に出席したモディは、製造業復興政策「メイク・イン・インディア」を推進していることをアピールした。ドイツには世界有数の機械メーカーがあり、中国の工場設備がここ数十年で一新された状況もドイツメーカーの力なしには語れない。
【参考記事】揺れる米独関係
先週は中国の李克強(リー・コーチアン)首相もドイツを訪れ、メルケルと会談。その翌日に行われた中国・EU首脳会議では、「戦略的パートナーシップを前進」させる目的で、貿易、移民問題、温暖化対策、外交政策、安全保障問題について話し合いが行われた。
メルケルがインドと中国の首脳と立て続けに会合を行った裏には、古くからのパートナーであるアメリカとイギリスに対し、ドイツは両国の力を借りなくても仕事を進められることを示す狙いがあったとの見方がある。
トランプ米大統領はEUを敵視し、対米貿易黒字を伸ばすドイツの貿易政策をこき下ろすだけでなく、ついには地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した。それに対してインドと中国は、少なくとも口では自由貿易や温暖化対策に賛意を示している。
しかし、メルケルだけが一方的に自らの立場を宣伝しているわけではない。オバマ前米大統領が推進したアジア基軸戦略はトランプ政権下ですっかり影が薄くなった。アジア諸国が信頼の置ける国際的パートナーとして視線を向けているのは既にアメリカではなく、ドイツをはじめとするEU諸国だ。
中国には、欧州で事業提携を築き、「一帯一路」構想をユーラシア大陸全域に広げたいという野心がある。一方のインドは東へと触手を伸ばし、東南アジア諸国との貿易関係の強化に努めてきたが、欧州諸国が新たなパートナーを見つけようとするなかで取り残されることを危惧している。
「私たちはEUがより強く、より活発になってほしいと常に願っている」と、モディは語った。「メルケル首相を通じて、わが国もEUと協力できる。それは難しいことではない」
さらにモディは、インドも温暖化対策に取り組むことを約束すると述べ、その模範はドイツだと付け加えた。
アメリカのアジア戦略については、さまざまな報道がある。しかし軸足を変えるべき時が来たことを理解しているのは欧米諸国だけではない――モディはそう示したようだ。
From Foreign Policy Magazine
[2017.6.13号掲載]
エミリー・タムキン
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