中国が「一帯一路」で目指すパクスシニカの世界秩序
ニューズウィーク日本版 / 2018年7月17日 15時30分
3)中央アジアへの西進
中国の周辺外交には、「東穏(東南アジアとの安定した関係構築)、西進(中央アジアへの進出)、北固(ロシアとの関係強化)、南下(南アジアへの進出)」という全方向への戦略的枠組みがあります。中国にとって中央アジアへの「西進」には、安全保障政策の強化、資源輸入の多元化、中央アジアにおける影響の拡大、中国の現代化建設や開発とのリンケージなどの多様なねらいがあります。
中国は、「一帯一路」の提唱前から、中央アジアとエネルギー分野で関係を深めていました。既に2009年12月には、中国初の陸路による天然ガス輸入ラインとして、中央アジア天然ガスパイプラインA線が稼働しました。現在では、A~Cの三本のパイプラインが稼働し、新疆ウイグル自治区で中国国内の「西気東輸」プロジェクトのパイプラインと接続しています。中央アジアからの天然ガスは、中国内の3億人以上に恩恵を及ぼしています。中国のエネルギー資源確保にとって、中央アジアは重要な戦略的要地です。そこで、地域安全保障機構としての上海協力機構(SCO)やアジア信頼醸成措置会議(CICA)の「発展」を推進していくのに、「一帯一路」との連携が重要な役割を担っています。
さらに、中国の国家安全保障にとって、中央アジア諸国との「3つの勢力(分離独立勢力・宗教過激派・国際テロ)」への共闘が必要です。しかし、政治体制が脆弱な中央アジア諸国は「3つの勢力」を抑える力が弱く、多国間協力体制の構築が必要です。中央アジアにおける「3つの勢力」の動向が、新疆など中国国内において否定的な影響を及ぼす潜在性は、中国の国家安全保障にとって脅威となっています。習近平氏は「シルクロード経済ベルト」を呼びかけるにあたり、内政不干渉、領土問題などの重要な核心的利益にかかわる問題での相互支持、SCOの枠組み内での相互信頼の強化、「三つの勢力」や国際的組織犯罪の取り締まりなどの安全保障協力の推進、などを強調しました。また、東シナ海や南シナ海問題で東側周辺が緊張するなかで、西側周辺に安定的な国際関係を形成しておく必要が中国にはあります。
「一帯一路」は、「一帯一路」そのもので完結する枠組みではありません。「一帯一路」とは、既存のプラットフォームを基盤にして、またはそれらと連携して、「運命共同体」建設に向かう協力枠組みです。SCOメンバー国には、「一帯一路」や「ユーラシア経済同盟」のドッキングをSCO域内において少しずつ実現し、最終的にSCOの枠組みによる自由貿易区(FTA)を構築していく目標があります。
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