中国が「一帯一路」で目指すパクスシニカの世界秩序
ニューズウィーク日本版 / 2018年7月17日 15時30分
一方、中国は北欧諸国との関係強化も、北極圏開発を含む「一帯一路」の枠組みで積極的に展開しています。中国は、1995年以降、北極圏の調査に着手しました。中国は2013年に北極評議会のオブザーバーになりましたが、その前月には、当時の温家宝国務院総理がアイスランドを訪問し、「北極協力に関する枠組み協定」や2007年から交渉を進めていた中国─アイスランド間のFTAに調印しました。また、中国は、2004年夏にノルウェー領スピッツベルゲン島に中国初の北極科学観測基地「黄河基地」を開設しました。2012年にアイスランドで「中国・アイスランドオーロラ共同観測台」を設置し、2016年には、グリーンランドと「北極科学研究の共同推進に関する覚書」に調印しました。2017年8月には、第8回北極科学観測隊が極地観測船「雪竜号」が「北極中央航路」の通過に初成功しました。北極中央航路は、中国から北極海の公海を通過してEU経済圏を結ぶ海上航路です。北極政策の重要性がますます高まるなか、中国は、フィンランド、ノルウェー、アイスランド、エストニア、ラトビア、リトアニアとの関係をさらに強化しています。
5)南アジアにおける「中進印退」
中国は、南アジアで「インド依存型の地域秩序」を切り崩す外交を展開しています。
「一帯一路」に参加したモルディブは、中国とFTAを締結しました。ネパールは、2015年以降、インド依存型から親中派政策に顕著に軸足を動かしています。中国がインド勢力圏を切り崩している南アジアにおいて、中国とインドの優位関係は、「中進印退(中国のプレゼンスが高まり、インドのプレゼンスが後退している)の形勢にあると」言えるでしょう(中国の対南アジア外交について、紙幅の都合で本稿は略述にとどめるため、拙著『米中露パワーシフトと日本』勁草書房、2017年刊、第6章を参照してください)。
南アジアにおける中国プレゼンスの膨張は、「一帯一路」が提唱される前から、「中国型新植民地主義」と警戒されていました。中国からパキスタンへの支援は、すでに半分以上が焦げ付いているとの報道もあります。パキスタンやネパールやミャンマーでは、資金援助と引き換えに提示された所有権や運営維持管理などの諸権利を中国側へ譲渡するという融資条件をめぐり、プロジェクトが中断したり中止に追い込まれたりする案件も出ています。「一帯一路」は御伽噺ではありません。
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