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中国の「監視社会化」を考える(1)──市民社会とテクノロジー

ニューズウィーク日本版 / 2018年12月5日 15時30分

その延長線上に、それまでの領域的な国家と深く結びついた市民社会概念に代わって、水平的で国境横断的な、グローバルなネットワーク構築の中心的役割を担うものとして、NGOなどの第三の社会領域、すなわち「市民社会(Zivilgesellschaft)」の役割を再評価する潮流の台頭も挙げられるかと思います(カルドー、2007)。これは、分かりやすく言えば、NGOや市民団体などが「第3の社会領域」に位置する団体の代表として国家の壁を乗り越えて活動することで、新自由主義や資本主義の矛盾を乗り越えていこう、という考え方を表したものです。その中で、例えば中国も含めて新興国あるいは権威主義体制の国家においても、こういったNGOに代表される第3の社会領域みたいなものは広がりを見せているんだよ、という観点から、中国においても、「市民社会論」が盛んに論じられる、という状況があります。

代表的な議論として、2012年岩波新書から出版された、李妍焱さんによる『中国の市民社会』という本があります。この本は、中国で実際に活躍する多くのNGO、環境問題に取り組んだり、農村から出稼ぎに来ている底辺層にいる人たちをサポートしたり、そういった活動行っているNGOの活動を日本の読者に紹介した本です。李さんの言葉を借りれば、「市民社会は決して市民社会的伝統を有する欧米の国々、あるいは国家権力の相対化を追求する民主主義制度の「特許的領域」ではない。市民社会の伝統を有さない国においても、社会主義を標榜する国においても、国家が公共の問題の全てをコントロールできない以上、市民社会の存在が現実的に可能となる」ということになります(李、2012)。



ただ、こういった中国の現実に関しては、日本の研究者から異論も投げかけられています。例えば、鈴木賢さんは、中国のNGOに代表される社会組織について、以下のような非常に厳しい見解を示しています。「中国の社会組織法制は厳しい制御[控制]主義と一定程度の放任主義を特徴とすると概括されるが、政治的、社会的安定を優先させることを考慮して、社会組織の発展をできるだけ抑制することを基調とした。党国(=党組織と国家機関が一体化した、社会主義体制に特徴的な統治機構にあり方) は党国のコントロールが及ばない「社会」が育つことに強い警戒感を抱き、その勢力の拡大を恐れてすらいるように見える」「党国は党国に決して逆らわず、聞き分けのよい、むしろ協力的で、利用価値の高い社会組織だけを育成しようとしているのである」(鈴木、2017)。

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