中国の「監視社会化」を考える(1)──市民社会とテクノロジー
ニューズウィーク日本版 / 2018年12月5日 15時30分
そして最近では、すでに述べたようにNGOやNPOなどの国家とも営利企業とも異なる「第三領域」に属する民間団体、あるいはその活動領域を指して「市民社会」と呼ぶ動きが主流になっています。つまり、西洋社会にその起源をもつ少なくとも三つの異なる概念に、日本では同じ「市民社会」という用語を当てるのが習わしになってきたのです。
このことは、日本の社会科学の発展の中で、マルクス主義が大きな役割を果たし、それゆえに「市民社会」概念の受容が独特のバイアスを持って行われたことと深く結びつき、独特の複雑さをもたらしてきました。
ここでとりあげたいのが、例えば戦前の講座派、あるいはその問題意識を受け継いだ戦後の市民派マルクス主義の議論です。こういう立場の人たちによって共有されているのは、ヨーロッパの資本主義の発展が、自由で平等な独立した個人に支えられた市民社会を生み出したのに対して、日本にはまだ十分に成熟した市民社会が成立していない、彼らは、戦後の日本社会に注目して、そこでは十分に成熟した市民社会が成立していない、という視点です。
中でも内田義彦、平田清明といった「市民社会派マルクス主義」と呼ばれる人々の議論によって、「市民社会」という概念には「人々が相互に尊重し合い、理性にもとづいて対等に対話を行うことを通じて、公共問題を自主的に解決していこうとする社会」、すなわち「めざすべき善き社会」ともいうべき規範的ニュアンスが込められるようになりました(坂本編、2017)。
市民社会派の議論のもう一つの特徴は、国家と市民社会を対立的に捉えようとする姿勢です。明治以来の日本社会の近代化が、国家主導の上からの資本主義化として行われたため、スミスが理念型して示したようなアントルプルナーによる「下からの近代化」を通じた市民社会の形成がかえって阻害された、という問題意識がそこにはありました。その背景として、戦前の日本における社会の近代化が国家主導で行われ、「個」が確立した自立的市民によって担われなかったため、最終的に非合理的な対英米開戦に突き進み、「滅私奉公」的な総動員体制に至ったことに対する痛切な反省の念を指摘することができるでしょう。
例えば、市民社会派の代表的な論客の一人である平田清明は、『市民社会と社会主義』のなかで、次のように述べています。「日本をふくむアジアでは、個体の肯定的理解が成立しないのだ。個体は、共同体におのれを帰一させつくす(滅私奉公)か、己が私的利益の追求に汲々たる人間である(我利我利)かのいずれかなのである(平田、1969)」。
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