宇宙を「新たな戦闘領域」とする米宇宙軍の脅威

ニューズウィーク日本版 / 2019年2月21日 16時30分

<宇宙で軍拡競争を繰り広げるよりも、市民生活のインフラとなっている民生用人工衛星を協力して守るべきだ、と科学者たちが警告>

ドナルド・トランプ米大統領の「宇宙軍」創設構想に、アメリカの科学者団体が警鐘を鳴らした。アメリカが宇宙空間を「戦闘領域」とみなし、宇宙での脅威に対応する軍隊を新設すれば、「宇宙空間における軍拡競争に火をつけることになる」と、科学者たちは警告している。

今でも米軍の任務には、宇宙空間における潜在的な脅威への対処が含まれているが、トランプ大統領は「宇宙における脅威を抑止し、反撃する」任務に専従する軍を創設する必要があるとして、2月19日に大統領令に署名。米国防総省に宇宙軍創設に向けた法案を作成するよう指示した。

科学者たちに言わせると、トランプの構想は「非常にまずいアイデア」だ。既に宇宙兵器の開発を進めている中国やロシアがますます新型兵器の導入を急ぎ、歯止めなき軍拡レースになるのが目に見えているからだ。

「アメリカの宇宙軍創設が誘因となって、各国が宇宙兵器開発を進めれば、宇宙空間で軍事衝突が起きる確率が高まる」と、「憂慮する科学者同盟」の宇宙防衛問題専門家ローラ・グレゴは、同盟のサイトで発表された声明で警告している。

「トランプ大統領は宇宙を新たな戦闘領域と位置付けた。軍にとって宇宙が重要であることは否めないが、軍事活動は宇宙における多様な活動のほんの一部でしかない。現在2000個近い人工衛星が運用されているが、その80%は民生用で、通信その他の人々の生活に不可欠なサービスを提供している」

平和利用のリーダーになれ

人工衛星が破壊されれば市民生活に壊滅的な損害を与えるため、「宇宙空間を守ることが私たちの責務だ」と、グレゴは訴えている。

「宇宙空間の安全保障は、一国主義的なアプローチや軍事的手段のみでは達成できない。宇宙利用に乗り出している他の国々との調整と協力が必要であり、外交努力が求められる」

宇宙の長期的な持続可能性の維持のための指針として、EUが提案した「宇宙活動の国際行動規範」や、宇宙空間の軍拡競争阻止を目指す国連の政府専門家グループ(GGE)の規範など、現在さまざまなルールづくりが進んでいると、グレゴは指摘し、アメリカはこうした試みの先頭に立ち、宇宙空間の軍事化ではなく、平和利用を推進すべきだと論じている。

「人工衛星を守るにははるかに優れた方法がある。運用中の衛星の40%はアメリカが打ち上げたものだ。今後も長期にわたって安全に運用できるよう、アメリカが率先して平和利用の枠組みづくりに取り組むべきだ」

一方で、アメリカは宇宙兵器開発で出遅れているとして、トランプの構想を支持する声もある。中国とロシアは宇宙空間で軍事的優位に立とうと、アメリカの衛星を攻撃できるレーザー兵器などの開発を進めており、うかうかしていれば劣勢に追い込まれる、というのだ。



ただ、宇宙軍の創設には議会の承認が必要だ。トランプは当初、米軍の他の部門と「別個の、対等な」宇宙軍の創設を構想していたが、共和党議員や国防総省が、既に宇宙活動を担当している空軍の下に設置すべきだと助言し、トランプもそれを呑んだ。

空軍は公式サイトで、われわれは「空域、宇宙、サイバー空間における世界でも傑出した軍隊」であると述べ、「世界最大の宇宙計画」に参加する空軍兵士は、「人工衛星の追尾からロケット打ち上げの支援まで、あらゆる活動を担うチームの一員」であると宣言している。

宇宙軍の創設に必要な予算については、トランプ政権はまだ明らかにしていないが、トランプが3月に議会に示す2020会計年度の予算教書には盛り込まれるはずだ。



※2019年2月26日号(2月19日発売)は「沖縄ラプソディ/Okinawan Rhapsody」特集。基地をめぐる県民投票を前に、この島に生きる人たちの息遣いとささやきに耳をすませる――。ノンフィクションライターの石戸諭氏が15ページの長編ルポを寄稿。沖縄で聴こえてきたのは、自由で多層な狂詩曲だった。


シャンタル・ダシルバ

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