中国の「監視社会化」を考える(5)──道具的合理性が暴走するとき
ニューズウィーク日本版 / 2019年2月27日 13時26分
この連載でもしばしば触れてきた芝麻信用を提供するアリババ傘下のフィンテック企業、アントフィナンシャルの活動を詳しく解説した書物では、次のような指摘がなされています。「アントフィナンシャルの多くの業務は『先にやって、後で認可を得る』スタイルである。例えば、アリペイは2003年にリリースされたが、中央銀行が交付する正式な決済業務の許可証(ライセンス)は、2011年になるまで取得していなかった。中国の監督当局がフィンテック企業のイノベーションを一撃で壊滅させなかったのは、それらの革新的な業務が実体経済に与える価値を認めたからにほかならない」「中国の監督当局がイノベーションを容認してきた手法は、世界で採用されているレギュラトリー・サンドボックス方式に通ずるものがある。つまり、リスクを注視しつつ、イノベーションを容認するというやり方だ」(いずれも、廉=辺=蘇=曹、2019)。
特に、新しい技術について一時的に従来の法規制を外して実験を行う、いわゆる「(レギュラトリー)サンドボックス方式」は、昨今先進国においてもイノベーションを生み出す環境を作る政策として次第に注目を浴びていますが、これはむしろ中国のような法の支配が弱い社会のもとでのテクノロジーへの対応というものを、先進国が模倣しているという側面があるようにも思えます。
この連載でも述べてきたように、中国において進む「監視社会化」を語る際に、中国を他者化してしまい、その影響力を切断してしまえば、「われわれ」の社会のディストピア化は防ぐことができる──現在のアメリカ政府の姿勢にはそれが濃厚ですが──という考え方は有効ではなく、むしろ危険だ、と私が考えるのも、今まで述べてきたような現状認識があるからです。むしろかの国で生じていることは、決して他人事ではなく、より大きな「近代的統治の揺らぎ」として、人類に共有されつつある今日的課題としてとらえるべきではないでしょうか。
今、新疆ウイグル自治区で何が起きているのか
さて、中国の監視社会をオーウェルが『1984年』で描いたようなイメージで語るのはミスリーディングだ、と述べてきました。しかし、どう考えてもそれに近いイメージで語ることを避けられない事態も現実には生じています。具体的には、少数民族に対する共産党の統治のあり方がそれにあたります。中でも深刻な状況にあるのが、新疆ウイグル自治区における状況です。
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