中国の「監視社会化」を考える(5)──道具的合理性が暴走するとき
ニューズウィーク日本版 / 2019年2月27日 13時26分
新疆ウイグル自治区の各地に建設された、大規模な「再教育キャンプ」と呼ばれる収容施設が世界的な関心を集めています。後述するようにこの施設は限りなく強制収容所に近いと考えられますが、ここでは中立的な用語として比較的使われることの多い「再教育キャンプ」という用語を用いておきます。また、この問題では報道機関やジャーナリストが自由な取材をすることが不可能であるため、人権団体などやその協力者が当局の目をかいくぐって行ったインタビューや、海外亡命者による証言などによってその深刻な事態が次第に明らかになっていったこと、当然のことながらそれらの証言者によって構成された事実は政府や政府系のメディアによって描かれるものとは大きな距離があることなどをあらかじめお断りしておきます。
この問題は、イスラム教徒が多数生活する新疆ウイグル自治区で、再教育キャンプとよばれる非常に大きな収容施設がいくつも建設され、その中に「イスラムの過激思想に染まって反社会的行動を起こす可能性がある」とみなされた人々が、職業訓練や法律などの「再教育」を受けるために長期間収用されている、というものです。
中国では2015年に「反テロ法」が成立し、その法律に基づいた新疆における治安維持活動が本格化します。上記の収容施設は、ちょうどのその時期、2016年初頭から建設が始まり、現自治区党書記の陳全国氏が就任した同年夏からから自治区全体に広がったといわれています。2017年になると、その存在が海外に住む亡命ウイグル人や人権団体の間に伝わっていき、ジャーナリズムを通じてその深刻さが報道されるようになっていきます。
2018年夏に開かれた国連人種差別撤廃委員会で、米国のマクドゥーガル委員がウイグル人やカザフ人をはじめとしたイスラム教徒100万人以上が収容施設に送られた疑いがあると懸念を表明し、世界的にも関心が高まりました。当初施設の存在を否定していた中国政府もその後は「再教育のために必要な施設」という主張に転じ、同年10月10日には施設建設の法的根拠となる「新疆ウイグル自治区脱過激化条例」の改正版を公布しています(1)。しかし、施設に収容されていた当事者の証言が少しずつ明るみになるのに従い、その実態が中国政府の主張するものとはかけ離れていることが明らかになっています。また、ジャーナリストによる自由な取材が許されない中で、バックパッカーや観光客として現地を訪れた人たちによる旅行記が、中国の他の都市に輪をかけた「監視」の徹底ぶり、ならびにそれがあからさまにムスリム系の少数民族をターゲットにしたものであることを伝えています(2)。
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