中国の「監視社会化」を考える(5)──道具的合理性が暴走するとき
ニューズウィーク日本版 / 2019年2月27日 13時26分
海外からの相次ぐ批判に政府当局は最近になってジャーナリストの取材を受け入れ、再教育キャンプ内での生活が快適で、批判されているような「強制収容所」ではないことをアピールしようとしています。一方で、そういった視察を受け入れる際には有刺鉄線や収容者の部屋にある監視カメラ、ドアや窓に取り付けてあった鉄板などを撤去するなどの「やらせ」が行われているという指摘もあります(水谷、2019)。
パターナリズムと民族弾圧
さて、この問題はいくつかの異なる側面から語られなければなりません。
一つは、民族の独自の文化や歴史、宗教的なアイデンティティの抑圧、という側面です。そのことを象徴するのが、社会的に大きな影響力を持つ人々の施設への収容でしょう。
2018年11月、アムネスティ・インターナショナル日本などの主催で、カザフ国籍を持ち、カザフスタンで旅行会社を経営していたウイグル人、オムル・ベカリ氏の講演が東京と大阪で開催されました。筆者も大阪の講演会に参加し、オムル氏の語る収容所における凄惨な体験、特に民族としてのアイデンティティを否定され、中国共産党と習近平国家主席への忠誠の言葉を毎日繰り返させられる、という証言に言葉を失いました。「再教育」のための施設にはオムル氏のような成功したビジネスマンのほか、著名な大学教授やジャーナリスト、作家や音楽家など社会の一線で活躍する人々が多数収容されています(水谷、2018)。たとえばオムル氏とともに来日して講演を行ったヌーリ・ティップ氏の兄、タシポラット・ティップ氏は日本での留学経験があり、新疆大学の学長を務めています(長岡、2018)。
このような著名な人々が多数拘束されているということが、新疆で起きていることの「異常さ」を象徴しています。そもそも、国立大学の教授や成功したビジネスマンに後述するような縫製工場などにおける「職業訓練」が必要だとは思えないし、彼(女)らの多くは「過激思想」の持ち主などではない、体制内部でそれなりの地位を得ていた人たちだからです。そこには民族の独自の文化やアイデンティティを体現し、影響力のある人々をそれだけの理由で敵視する、という当局の姿勢がみてとれます。
第二に、この問題は経済問題としての側面も持っています。全体で100万人規模ともいわれる施設への被収容者は、上記のような社会的に発言力をもった著名人だけではありません。では、当局は何のためにそれだけの「普通の人々」を大量に収容しているのか。
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