トルコ統一地方選「野党が20年超ぶりに全国規模で勝利」エルドアン大統領率いる与党敗北の裏側
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月10日 10時56分
<全国の得票率で与党を上回り、35の市長選でも野党候補が勝利。与党の「歴史的な敗北」となったトルコ統一地方選が見せたエルドアン大統領を脅かす地殻変動の兆し>
トルコで3月31日に投開票された統一地方選は、近年のトルコ政治に例を見ない結果となった。81市の市長選のうち、主要都市を含む35の市長選で野党候補が勝っただけではない。この選挙結果は、トルコの地方政治におけるパワーバランスに重要な変化をもたらすものだ。
最大野党の共和人民党(CHP)は過去20年超で初めて、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領率いる保守系の与党・公正発展党(AKP)に全国規模で勝利した。全国の得票率は37.77%でAKPの35.49%を上回り、従来から強かった都市部だけでなく、AKPの長年の地盤でも勝利を収めた。
ただしアナトリア中部地方では、いくつかの市で敗れたものの、AKPの支持は根強い。昨年2月の2度の地震で被災した南東部のカフラマンマラシュとガズィアンテプでは、AKPが手堅く勝利した。
それでもAKPの全国的な得票率の低下には、CHPの戦略が効いたという以外に、昨年の大統領選でエルドアンを支持した有権者の変化が関係している。今回の地方選の結果からは、保守色の強い地域での投票行動に重要な変化があったことが分かる。
イスラム主義の新福祉党(YRP)や民族主義者行動党(MHP)など、さらに過激な勢力が躍進したことは、エルドアン支持層のイスラム主義者と右派の不満の表れだ。AKPの政策は宗教や愛国心の面で手ぬるいと考える保守派有権者の票が、YRPとMHPに流れた。
一方で、経済政策への不満からAKPに見切りをつけた有権者は、CHPにくら替えした。その大きな要因は、与党の経済政策の失敗と擁立候補の人選ミスかもしれないが、CHPが保守的な地域でも支持を広げている表れでもある。
カリスマ市長を前面に
この動きは、最大都市のイスタンブールでも顕著だった。同市の市長選では、CHPが推薦した現職のエクレム・イマモールが勝利。市内の保守色が強い地区でも、CHPの躍進が目立った。
改めて浮き彫りになったのは、選挙結果を左右する浮動票の役割を長年果たしてきたクルド人有権者の票の重みだ。親クルド派で左派の人民平等民主党(DEM)はシリア、イラクの両国と国境を接する南東部で支持を伸ばした。
有権者の関心を最も集めたのは、低迷の続く経済だった。野党が中央政府の経済政策の失態と、地方が上げている実績を切り分けて訴えたことも、効果があった。
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