潜入「国立競技場」! 緑と風のスタジアムは何かとスゴかった!!
パラサポWEB / 2022年4月22日 16時10分
東京2020大会のメイン会場となった、新国立競技場改め「国立競技場」。国内最大規模、観客席約68,000席を誇る日本スポーツ界の新たなシンボルとなるスポットだ。
大会中は、敷地全体が囲われて中に入ることができなかったが、現在は外周部や回廊といった、一般開放しているエリアには気軽に入れるほか、スタジアムツアーに参加すればフィールドまで降りることもできる。今回はそんな国立競技場の魅力について紹介したい。
東京2020パラリンピックの舞台、国立競技場 スタジアム外周部、各階に張り巡らされているスリット状の部分は、伝統的に日本建築に用いられてきた、軒庇(のきひさし)と呼ばれる部位。日光や風雨をしのぐだけではなく、スタジアムのデザインそのものの大きな特徴のひとつとなっている©JAPAN SPORT COUNCIL 秘密の散歩コース日本建築の様式を、そこかしこに現代的にアレンジして取り入れ、清廉な雰囲気を持つ国立競技場。一方「杜(もり)のスタジアム」というコンセプトも持つこの巨大建築の近隣には、明治神宮外苑や新宿御苑といった緑豊かな環境があり、敷地内も植栽が充実している。スタジアム本体に目を移せば、2階から5階の軒庇(のきひさし)上部にも、緑が施されている。やがて緑が生い茂るスタジアムになる計画なのだろう。
5階の外周部は「空の杜」と名付けられ、普段から自由に入れる回廊として一般開放されている。まだあまり知られていないので、秘密の散歩ルートにピッタリだ。
5階外周部にある一般公開されている回廊【空の杜】。5階とはいえ低層だが、一周すると、近隣の東京体育館や新宿の都心部はもちろん、東京タワーやスカイツリーなども眺められ、ちょっとした東京観光になる(天気の良い日は富士山も)。ランニングは禁止されているので注意スタジアム外部には、東京大会の聖火台や旧国立競技場の炬火台(きょかだい)も、設置されている。他にも一周すると旧国立時代の遺産ともいえる作品の数々が設置されているので、観戦に来訪した際には、ぜひ一周してみては。
製作は鋳物の街、埼玉県川口市の鈴木萬之助さんと文吾さん。この親子の鋳造師が東京1964大会の象徴ともいえる【炬火台】を製作した 東京大会の【聖火台】。取材時は残念ながら外構工事中で囲われていた 青山門には、旧国立競技場のスタンド最上部で、長くアスリートの戦いを見つめていた、相撲の神様「野見宿禰(のみのすくね)」と、ギリシャ神話の勝利の女神「ニケ」が 呼吸するスタジアムスタジアム内に入ってみよう。訪れたことがある人は、「そういえば」と思うかもしれないが、エントランスから内部に向かって歩いていると、風を感じる。この国立競技場、「呼吸するスタジアム」ともいわれており、四季にわたって自然の風を内部に取り込み、熱や湿気を外部に放出する計画が、綿密に施されているのだ。
【エントランス】ただ移動するだけの場所に変化を与える、少しずつ角度の違うスリットを施した天井デザイン。風の吹き抜ける感覚と相まって、どこか心地良さを感じる スタンドと大庇(おおひさし)の間からも外部の風を取り込む多くの木材が使用されていることでも有名な国立競技場。大屋根にも、鉄骨と木を組み合わせた構造部材が使用されている。木材は、全都道府県から調達した、カラマツやスギなどの木材が使用されているという。
木材はただの装飾ではなく、鉄骨と合わせた構造部材として役割を果たしている。大型木質化建築の試みは、現在木材利用を推進しようとしている日本の建築界に新しい可能性を提示しているスタンドのモザイク状の配色は、木漏れ日からインスピレーションを得た配色だとか。落ち着いた色でありながら、本来無機質な構造物であるスタジアムに、何かが始まる、動き出す様な期待感を静かに抱かせてくれる。
木漏れ日の様な優しい配色でありながら、静かにアスリートを盛り上げる ユニバーサルデザインスタンドの最上段には、車いす用の観覧席が。同伴者用の席も合わせて設置されており、一緒に観戦することができる。その座席にも、背もたれの座席表に点字が施されているほか、聴覚障がい者向けの集団補聴設備「ヒアリングループ」が設置されているなど、ユニバーサルデザインの点でもさまざまな取り組みが施されている。
車いすスペースに、同伴者用のシートも用意されているのが最近のトレンド。一緒にゆったりと観戦できる 都営地下鉄大江戸線国立競技場駅の入口から競技場までは、車いすで移動できる動線が整備されている トラックでアスリート気分東京大会では、開閉会式と陸上競技が行われた国立競技場。現在もトラック上に、パラリンピックのマーク「アギトス」が刻まれている。ここを舞台に、男子400mと1500m(T52/車いす)に出場した佐藤友祈選手の金メダルをはじめ、陸上競技では日本代表選手団のメダル「12」が生まれた。
「大きな歓声を背に受けながら、どんな気持ちでここに立つのだろう……」と想像しただけで心拍数が上がってしまう選手が使用する関係者用の車寄せ付近には、東京大会の陸上競技に出場したオリンピアン、パラリンピアンによる「サインウォール」がある
国立競技場は、この4月からスタジアムツアーを開始した。ここに紹介した通常は立ち入ることができない、競技者専用エリアに入ることができるほか、東京大会で使用した表彰台やロッカールームなど、あの夏の興奮を選手と同じ目線で堪能することができる貴重な機会だ。この記事で興味を持った方は、ぜひ訪れてみてほしい。
text by Satoshi Kataoka
photo by TEAM A
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